奈良県医師会 向川 智英
便秘は老若男女を問わず、誰もが一度は経験したことのある悩みでしょう。多くは大事に至らないのですが、便が何日も出ずにお腹が張って苦しい、食欲もなくなる、ひどい時には吐き気、嘔吐、腹痛などの強い症状で大変つらい思いをすることもあります。また、まれに腸に炎症や癌が潜んでいて、便が完全に詰まって腸閉塞(へいそく)を起こしていることもあり、単に便秘といっても侮れません。
日本内科学会の定義では、便秘とは「3日以上排便がない状態」とされています。便秘には、癌などの病気のために起こる「器質性便秘」と、便が作られる過程や排便の仕組みに問題があって起こる「機能性便秘」に分けられます。
前者の場合、血便、下痢、腹痛などの症状を伴うことが多く、早めに病院を受診する必要があります。後者には、①腸の緊張が弱くなり便を押し出せなくなる「弛緩(しかん)性便秘」、②ストレスなどで腸が過度に緊張し便がうまく運べなくなる「痙攣(けいれん)性便秘」、③便が直腸まで達しても便意を催さず停滞する高齢者や寝たきりの方に多い「直腸性便秘」の3つのタイプがあります。いずれも腸のリズムの乱れが原因で、腸は極めてデリケートな臓器なのです。
それでは便秘になったらどう対処すればよいのでしょうか?まずは、食事や就寝、起床の時間を決めて、ストレスをためず規則正しい生活を送ることが重要です。また、多くの場合、便秘は運動不足から起こります。便秘に関わる筋肉は腹筋で、適度に腹筋を鍛え排便する力を養う必要があります。臍(へそ)を中心に掌でひらがなの「の」の字を書く腹部のマッサージも効果的です。また、適度にお腹を温めることも腸の運動を促してくれます。
それでもなお便秘でお腹が苦しい時は、手首にある「間使(かんし)」のツボを押してみます。ツボは、腕の内側、手首から指4本分上がったところで、親指をツボにあて、残りの指で腕を支えるようにしながら、2~3分ずつゆっくりもんでみましょう。
次に大切なことは食事です。一般的に穀物、いも類、豆類、ひじき、寒天、果物など。食物繊維を豊富に含む食品は腸の運動を活発にしてくれます。水分摂取が少ないと便が固まり出づらくなるため、こまめに水分補給することも重要です。逆に、過度のダイエットは食物繊維や水分が不足し便が固まりやすく、油の摂取も控えると便の滑りが悪くなり注意が必要です。乳酸菌やビフィズス菌を含むヨーグルトや納豆などの発酵食品、善玉菌の栄養となるオリゴ糖などは腸内環境を整え、便秘を解消してくれる良い食べ物です。
このような日常的にできる便秘対策を実行しても便秘が解消しない場合は、やはり病院を受診し、自分の便秘のタイプに合った適切なお薬を処方してもらう必要があります。下剤の乱用でかえって便秘になったり、下剤で激しい下痢や腹痛が誘発される場合もあるため、安易にお薬に頼らないよう注意が必要です。