奈良県医師会 水野崇志
肛門は自分では見えないですし、他人に見てもらうのも恥ずかしい部位です。何か症状があった場合、自分で調べてもなかなか判断するのは難しいといえます。それでも、症状によってある程度の推測は可能です。肛門の症状として考えられるのは痛み、出血、できもの等になると思います。
肛門の痛みは、まず痔を想像される方が多いでしょう。出血を伴うことも多いです。痔はいくつかの種類に分かれます。いぼ痔といわれる痔核、切れ痔といわれる裂肛(れっこう)が代表的なものです。
痔核はいぼではなくて、実際は肛門周辺の血管、組織の腫れのことで、肛門の外にできる外痔核と、内側(奥)にできる内痔核があります。肛門の内側にある内痔核は痛みがありません。痛みを感じる時は外痔核、または内痔核が大きくなって肛門から脱出したもの(脱肛)が考えられ、その際は肛門にいぼ状のものを認め、触ると痛みを感じます。
裂肛は肛門の組織が裂けて生じるもので、痛みはありますが肛門を触っても何もありません。
どちらの場合も痔の治療用の軟膏(なんこう)や座薬で改善する可能性はあります。加療を継続しても改善しない場合は、手術や注射等の処置が必要となることがあります。
それら以外に痛みを感じる病気は、肛門周囲膿瘍(のうよう)が考えられます。これは肛門付近の皮膚、または皮膚の奥に膿(うみ)が溜まった状態のことです。痔核や裂肛は排便時に痛みを認めますが、肛門周囲膿瘍は関係なく痛みを感じ、肛門周囲が腫れていたり、腫れていなかったりしますが、一部に押さえると強い痛み(圧痛)を認めます。
痔の治療用の軟膏や座薬では改善せず、次第に痛みが強くなっていきます。診断がつけば、切開して膿を出さない限り痛みは続きますが、膿が出てしまえば急速に痛みは改善します。
痔ろうは肛門周囲膿瘍が肛門や肛門の奥の直腸と交通してしまう病態で、繰り返すことも多く、特殊な治療が必要となります。
痛み以外の主な症状は出血になると思います。肛門の痛みを伴わない出血は、肛門の奥にある内痔核の可能性が高いですが、大腸の炎症や癌の可能性もあります。
実際、大腸癌検診の便検査は出血を調べる検査になります。この場合、普段検診等を受けていない方は、あまり放っておかず検査を受けることを勧めます。内痔核以外は、それに合わせた治療が必要となります。
また、痛みも出血も伴わないが肛門付近にできものを触る時は、肛門周囲の皮膚が余った皮垂(ひすい)や、肛門ポリープ等が考えられます。良性の疾患のことも多いのですが、悪性のものや感染等で生じるものもあります。次第に大きくなる、数が増える、出血など他の症状も認めるようならば、確認のため診察を受けるようにしてください。
代表的な肛門の病気である痔を予防するには、排便の調整が重要です。肛門に力をかける、いきみが問題となるからで、便秘になれば強くいきむ必要がありますし、硬い、大きな便は裂肛の原因にもなります。また、下痢の場合は、排便やいきむ回数が増えることが問題となります。
排便を調整するためには、適度な運動が有効です。ウォーキングやジョギング等のある程度の負荷を持続的にかける運動は、腸の動きを活発にするため便通が良くなります。また、多量の飲酒や刺激の強い食べ物は下痢になりやすいので、節度を持つようにしましょう。
肛門の病気は、ある程度症状で推測できますが、実際の診療でも肛門を観察すると、全く違う病態を目にすることもあります。特に症状が強い、悪くなっていると感じれば、必ず肛門科、または外科を受診するようにしましょう。