虚血性腸炎ってなに?

奈良県医師会 榎本泰三

「虚血性腸炎」とは、大腸への血液の流れが一時的に悪くなり、循環障害によって起こる大腸炎のことです。血管と腸管の要因がそれぞれ複雑に関与し発症します。

血管の要因は、高血圧・糖尿病・虚血性心疾患などの生活習慣病や、動脈硬化性疾患が危険因子とされています。

腸管の原因としては、便秘が最も多いです。強く気張った時に腹圧がかかり、大腸粘膜への血流が低下します。また、食事後に消化吸収を行うため、大腸が活発に動いている時や精神的ストレスなども、虚血発生の誘因になるとされています。

高齢者が多いですが、若年者にも起こり、性別は女性に多いです(60歳代が最も多く、50歳以上が全体の85%以上)。症状は腹痛・下痢・血便で急に発症します。急に(左)下腹部痛が起こり(冷や汗や、吐気を伴う事もある)、その後下痢をきたし、次第に便に血液が混じるようになります。

大腸の中でも、S状結腸から下行(かこう)結腸にかけての左側大腸に多く発生します。腸炎の重症度により、一過性型・狭窄(きょうさく)型・壊疽(えそ)型に分類されます。

  • 一過性型:ほとんどがこのタイプです。虚血は一時的であり、内科的な治療(食事制限・安静・点滴など)によってほぼ完全に治ります。
  • 狭窄型 :内科的な治療によって治りますが、腸炎によってできた潰瘍(かいよう)が治るときに大腸が狭くなります。浅い潰瘍は跡形もなく自然に治りますが、深い潰瘍は大腸が狭くなって治る場合があり、発症から1~2ヶ月で起こります。狭窄が強く、腸閉塞(へいそく)をおこすと手術が必要になります。
  • 壊疽型 :大腸の血流が再開しないために腸が腐ってしまう重症の腸炎で、緊急手術をして腐った大腸を切除しないと命に関わります。腹膜炎症状(腹部全体に激しい痛みを感じ、歩行などの刺激で痛みが響くように強くなる)が出てくれば要注意です。

 

高齢者の急激な腹痛と血性下痢であれば、虚血性腸炎を推測できますが、確定診断には「大腸内視鏡検査」を行います。発症時にどの型であるかを予想することは困難で、腹痛が強い・血便の量や回数が多いなどの症状は、入院治療が必要です。

内科的治療の基本は腸管の安静です。発症初期で腹痛が強く、血性下痢が頻回な時期は入院の上、絶食にして点滴をします。腹痛や血性下痢が治まれば、流動食を開始します。症状が強くない場合には、外来での通院治療が可能です。この場合も食事療法が基本になるので、刺激物を避けて、消化の良いものを摂ります。

発症から約 1ヶ月後に大腸内視鏡検査や大腸CT検査を行い、大腸の狭窄の有無を確認します。虚血性腸炎の大部分(90~95%)は内科的治療で治り、予後良好な疾患ですが、なかには再発を繰り返す人もあります。また稀に狭窄型や壊疽型など手術を要する場合もあり、注意深い観察が必要です。

再発予防において、便秘が原因となった方は食習慣の見直しや適宜、緩下剤などを使用して便秘を改善する必要があり、また高血圧症・糖尿病・虚血性心疾患などの方は、これらの治療を継続が必要です。