起立性調節障害

奈良県医師会 山下圭造

私たちは毎朝目覚めて、食事をしたり排泄をし、仕事や運動をしたり、立ったり座ったり、怒ったり笑ったりの日常生活を送っています。

その時の状態に応じて、時々刻々と血圧や脈拍数は変動し、瞳孔(どうこう)の大きさや発汗の量、胃腸の動きなども変化します。これらを全般的にコントロールするのが自律神経の役割で、自分の意志では調節できない自動制御になっています。

 

自律神経の働きには、その日の天候や気温・湿度、心理的・環境的ストレス、性別や年齢が大きく影響すると言われています。特に小学校高学年〜中学生の時期には、

・身長・体重が急に増える

・第二次性徴(女子では初潮)

・勉強量の増加、進学

・異性や親への意識の変化など

子どもの世界から大人の世界へと大きく変動するため、自律神経は大きな影響を受けて、制御システムに変調をきたすことが多くなります。

50才前後の更年期とともに、この時期は自律神経に変調をきたしやすい、人生における2つの山―と言えるのかもしれません。

 

「起立性調節障害」は、自律神経系の異常により、血圧や脈拍など循環器系の調節がうまくいかなくなる状態です。

病名の由来でもあるように「立ちくらみ」が代表的な症状で、時には失神してしまうこともあります。他にも「疲れやすい」「朝、起きられない」「夜、寝つけない」「長時間立っていられない」「頭痛・腹痛」―など症状は多様で、しばしば不登校や引きこもりの原因となっています。

 

学童期や思春期の子どもさんやお孫さんに、このような症状が見られたら「起立性調節障害」かもしれません。日本では昔から「病は気から」と言われるように、「不調の原因は本人の精神的な問題である」とされることが多いようですが、実際には自分ではコントロールできない調節障害が生じているのです。

症状を訴えれば訴えるほど、「サボっている」「休むために言い訳している」と受け取られ、病院を受診しても「検査データには異常ありません。心配ないですよ」と言われると親も本人も困惑してしまい、時には「親―子関係」に大きな傷跡を残すこともあります。

 

貧血などの血液病、甲状腺などのホルモン異常、脳や心臓などの病気が隠れている場合もあるため、一般的な検査も受けた上で起立性調節障害の疑いがあれば、専門的に対応している医療機関を紹介してもらいましょう。

症状に対する詳細な問診をしたり、体位変換に対する血圧や脈拍の変化を測定したり、日常生活パターンの調査や心理的・環境的ストレスに対するカウンセリングなどを時間をかけて進めていく必要があります。多くの人で混みあう一般内科・小児科外来での対応は困難かもしれません。

 

起立性調節障害は、成長過程に起こりうる自律神経のアンバランスからくるものです。時間はかかっても成長とともに解消していくことが多いため、焦らず家族で一緒に乗り切りましょう。