奈良県医師会 松村榮久
新型コロナウイルス感染症の流行が続き、皆さん咳(せき)に敏感です。特に人が集まる場では気を遣われます。新型コロナウイルス感染症においては、一部の重症例や重症化リスクのある人を除く大多数の方には特別な治療薬はなく、細菌感染症の治療薬である抗生物質(抗菌薬)も使用しません。安静、水分補給、適宜解熱剤を使用しながら経過観察となります。強い咳には鎮咳剤(咳止め)を処方しますが、意外に長引くこともあります。
さて「長引く咳」とは、どれくらいの期間でしょう。普通の「かぜ」では3、4日で発熱が治り、約1週間でのどの痛み→鼻水→咳の順に症状が治まります。咳は2週間後でも2割の人に残っています。従って3週間までの咳の持続は、普通のかぜでもありえると解釈します。そんなに長く!と思われるかもしれませんね。
3週間以上咳が続く場合、医師も「長引く咳」として考えます。主な原因として①喫煙、気管支喘息(ぜんそく)、慢性副鼻腔炎、気管支炎など ②肺癌、肺結核などの重大な病気 ③服用中の薬に由来(薬剤性)―です。
診察では前述②(重大な病気)を調べるために、胸部レントゲンや血液、痰(たん)の検査を行います。並行して③(薬剤性)のため服用薬をチェックします。お薬手帳はとても役立ちます。代表的なものに高血圧の治療薬(ACE阻害薬:エナラプリル、イミダプリルなど)があります。ACE阻害薬は心臓や腎臓保護作用があり、よく使われる有用な薬ですが、5~10%の方にのどがむずむずして咳が出ることがあります。服用開始後2~3ヶ月後に起こりやすく、薬の中止により1~2週間で治ります。また、稀ですが鎮痛薬(内服の他、湿布でも)が原因で咳が出ることもあります。アスピリン喘息の徴候です。
②③に原因がなければ、最も多いものは気管支喘息です。喘息の主な症状は、発作性の咳、喘鳴(ぜんめい:息づかいがヒューヒューいうこと)、息苦しさで、深夜から明け方に出やすく、昼間はしばしば軽快します。なかには喘鳴がなく、咳のみを訴える方があり「せきぜんそく」と言います。気管支喘息の軽症亜型といって良いでしょう。治療は通常の喘息に準じて行い大変有効です。逆に喘息の治療を行い効果があれば、せきぜんそくと判断することも多いです。
なお消化管の病気で慢性の咳の原因になるものがあります。胃食道逆流症(逆流性食道炎)です。胃酸の食道への逆流が刺激になり咳が出ます。逆流症状は通常「胸やけ」として表れますが、どうしたことか胸やけがなく咳のみを訴えることがあります。胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬など)が有効で、咳止めではなく胃薬が咳の治療薬になります。
新型コロナウイルス感染症の流行を繰り返しているこの2年半、コロナウイルス以外のウイルス性気道感染症は少なくなりました。外出機会が減り、マスク着用でほこり・ダニ・種々の花粉を吸い込むことが減ったためか、喘息が悪化する方も少なくなったように思います。それだけに3週間を超える「長引く咳」には重大な病気のこともあり、医療機関にご相談ください。