奈良県医師会 笠原仁
今年初めより耳にするようになった『みなし陽性』という言葉ですが、実はこの言葉は正式な用語ではありません。同居家族などの感染者の濃厚接触者が有症状となった場合で、検査を実施せずに医師の判断により臨床診断された方のことをみなし陽性患者といっており、正式には『(特例)疑似症患者』といいます。
厚生労働省の通知をさかのぼれば、令和4年1月に新型コロナウイルス感染症対策推進本部からの事務連絡の中に「同居家族などの感染者の濃厚接触者が有症状となった場合には、医師の判断により検査を行わなくとも臨床症状で診断された者は、新型コロナウイルス感染症の疑似症患者であって 当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のあるものであるため、感染症法第8条第2項に基づき、新型コロナウイルス感染症の患者とみなして感染症法の規定を適用することになります」と書かれており、ここで『みなして』という言葉が出てきて以後、みなし陽性という言葉で各自治体が使うようになったように思います。そして、事務連絡の内容から、医師が疑似症(みなし陽性)患者と判断できるのは、「陽性者の同居家族、同居人」「陽性者との接触が明らかなクラスター発生施設の従業員」「その他、医師の裁量で検査しなくともコロナに感染していると疑うに足りる正当な理由がある場合」と解釈できます。
検査でほぼ間違いない証拠をもって診断することを確定診断といい、症状から医師の裁量で診断することを臨床診断といいます。通常は臨床診断(診察)から行い、必要に応じて確定診断のための検査を行っていくもので、実は厚労省の新型コロナ感染症への考え方も検査ありきではなく、まずは臨床症状から入って検査の必要性を考慮していくこととなっていて、新型コロナ感染症に限らず、ことさら区別して使われることは今まであまりありませんでした。今回この言葉を区別して使うことが多いのには次の理由が考えられます。当初、この事務連絡が発出されるまでは、疑似症患者は症状があっても検査で陽性にならない限り保健所へ届出ができず、新型コロナ感染症としての様々な助成制度が使えませんでした。では保健所に疑似症患者として届出ができるようになったからといって、全く同じ扱いになったかというとそうではなく、現時点では確定診断された患者しか治療薬を使うことができません。ですので今でも区別する必要があるのです。
今後もこの『みなし』という言葉が皆様の目に留まることがあるかもしれませんが、このような経緯と意味を知って読んでいただければ、と思います。なお、令和4年8月29日現在、奈良県ではみなし陽性の扱いは行われておりません。