帯状疱疹

奈良県医師会 松村榮久

帯状疱疹(たいじょうほうしん:帯状ヘルペスともいう)は、主に50歳以上の中高年者にみられる疾患で、80歳までに約3人に1人が罹患すると推計されています。小児期にかかった水痘(すいとう:水ぼうそう)ウイルスが、再活性化(脊髄近くの神経に何十年も眠っていたウイルスが再増殖)することにより発症します。他の病気にかかったり、ストレス、過労、栄養や睡眠不足などで免疫力が落ちたとき、あるいは新型コロナ禍によるストレスも影響があるかもしれません。近年では、20~40代の比較的若い世代にも見られています。

症状の始まりはピリピリした軽い痛みだけですが、数日から1週間ほど遅れて痛みの場所に虫さされや水ぶくれ様の発疹が出現します。部位は顔、胸、腹、背中、腕や脇の下、太ももから足先などの1か所で、必ず左右の片側に現れます。

発疹が出て病院を受診すると診断は容易ですが、発疹の出る前(痛みだけの数日から1週間)はなかなか診断が難しいです。左胸の痛みでは「狭心症」、太ももから足先にかけての痛みでは「坐骨神経痛」と診断されることもあります。痛みのある部位に湿布を貼り、数日後に発疹が出現して湿布かぶれと思い込み診断が遅れてしまうことがあります。治療は抗ウイルス薬を鎮痛剤とともに内服します。治療開始が早い方が効果も高く、発疹に気づいたらなるべく2、3日以内に受診しましょう。

特別な部位として、眼に波及した帯状疱疹では後遺症として視力低下を残す恐れがあり、片眼の充血や鼻の根元の発疹は要注意です。また、耳に出現した帯状疱疹では難聴や顔面神経麻痺を合併することがあります。顔の上半分(特に目・鼻・耳や額)の痛みを伴う発疹の際は、特に早めの受診が必要です。

帯状疱疹が厄介なのは、発疹は2~3週間で治りますがその後もピリピリした痛みが続くことで「帯状疱疹後神経痛」と言われます。通常は2、3か月以内に治まりますが、抗ウイルス薬治療の遅れた方や高齢者では半年あるいは1年以上痛みが続くことがあります。この神経痛には鎮痛剤、抗うつ剤、時には麻薬系鎮痛剤を要します。原因のはっきりしない片側の痛みが続くとき(痛みの強さや場所は様々)、痛みに遅れて赤いブツブツが出てきたときには、ぜひ医療機関受診をお勧めします。

なお、帯状疱疹の予防接種があり大変有用です。ワクチンには2種類あり、一つは従来より小児の水痘予防接種として使用してきた弱毒生ワクチンで、これを大人に一回接種します。もう一つは2020年に認可された遺伝子組み換えサブユニット型の帯状疱疹ワクチン(50歳以上可能、2回接種)です。有効率や効果持続期間は後者が優れていますが、費用も相応にかかるため(1回約9千円vs2回合計約4.5万円)、基礎疾患や服薬(弱毒生ワクチンは免疫抑制剤内服中は不適)、発熱などの副反応などを医師と相談の上、接種されることをお勧めします。