脂肪肝、放っておいて大丈夫?

奈良県医師会 溝上晴久

人間ドックや健康診断を受けて、「脂肪肝」と言われたことがありませんか?
近年増加傾向にあり、日本人では男性の32~41%、女性の9~18%の方が脂肪肝といわれています。
ところがそう診断されても「太っているから仕方がない」程度に考え、そのまま放置している方がほとんどのようです。
しかし、脂肪肝が進行すると、将来において肝硬変や肝臓がんを発症する場合があるのです。
本来、肝臓ではエネルギー源として肝細胞の中に脂肪をためていますが、その脂肪が過剰となり肝細胞全体の3割以上が脂肪化している状態を脂肪肝といいます。
脂肪肝には過度の飲酒が原因の「アルコール性」と、飲酒以外が原因の「非アルコール性」の二つがあります。
アルコール性の中でも肝臓に炎症が起こった状態で肝障害が進行していくものを「アルコール性脂肪性肝炎(ASH)」と呼びます。非アルコール性の場合、これまでは肝障害の進行はないと考えられていましたが、現在では非アルコール性の中でも肝障害が進行していくものがある事が分かっており「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」と呼ばれています。
この二つがやっかいで、放置しておくと将来肝硬変や肝臓がんへ進行する場合があるのです。
脂肪肝は生活習慣病の一つであり、原因としてはアルコールの過剰摂取、栄養の過剰摂取(肥満)、運動不足、糖尿病、ステロイド剤の服用などがあります。
脂肪肝になったからといっても、肝臓は予備能力が高く、少しぐらいダメージを受けても全く症状はでません。そのため、かなり肝障害が進行しないと、自覚症状はありません。
診断は腹部超音波検査、腹部CT検査、腹部MRI検査、採血検査などを組み合わせて行います。
ただし、「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」などの肝障害が進行するタイプかどうかを確定診断するためには、肝生検(肝臓に細い針を刺して組織を取って調べる)をする必要があります。
治療の原則は、食事療法、運動療法などの生活習慣の改善です。
食事療法・運動療法としては
1) アルコールを控える
2) 脂質や糖質の多い食事を控える
3) 栄養バランスのとれた食事を3食とる
4) 寝る前2時間はカロリーのあるものはとらない
5) 間食は控えめにする
6) 30分以上の有酸素運動をできれば毎日する
7) 運動は食後1時間後がよい―などがあります。
薬物療法としては、わが国においては保険適応を有する薬剤はありません。
ただし、糖尿病、脂質異常症、高血圧症などの治療薬の中には一部効果が認められる薬剤もあり、これらの疾患を治療中の方は主治医に一度相談してみるとよいでしょう。
また、日本人は飲酒や肥満がない脂肪肝が欧米人と比べて多いのが特徴です。
普段あまり検査を受ける機会のない方も、一度は肝臓検査される事をお勧めします。

※ASH:alcoholic steatohepatitis NASH:nonalcoholic steatohepatitis