前立腺とPSA

奈良県医師会 前田純宏

①前立腺とは

男性だけにある臓器で、膀胱の出口で尿道を取り囲んでおり、大きくなると尿道を圧迫して排尿に異常を来すことがあります。前立腺液といわれる精液の一部を作っており、精子を保護したり、栄養を与えたりする役割があります。

 

②前立腺の病気

◎前立腺炎(前立腺結石症)

20~50歳に多い病気で、排尿の痛み・違和感、下腹部の痛みが主な症状です。抗生剤などで治療します。健康診断の超音波検査で「前立腺結石」(=組織の石灰化)と診断される場合は、炎症を繰り返した結果と考えられています。他の結石のように詰まって痛くなる症状はありません。

◎前立腺肥大症

50歳以上で加齢により増えてくる病気です。前立腺のサイズは超音波検査で測定することができます。大きくても排尿状態が良好なら、お薬などの治療は必要ありません。

◎前立腺癌

前立腺肥大症と同様にほとんどは50歳以上に発生しますが、肥大症と癌は全く異なる病気で、肥大だから癌になりやすい訳ではありません。むしろ前立腺が小さい場合は、次に述べるPSAが少し高いだけでも癌の可能性が上昇します。

 

③PSA(前立腺特異抗原)

いろいろな癌の発見につながる腫瘍(しゅよう)マーカーの中でも、特に早期癌(前立腺癌に限る)の診断に有効な血液検査がPSAです。前立腺の上皮細胞から分泌される蛋白(たんぱく)で、刺激により分泌が増えることから、癌以外でもPSAが高値になることがあり、注意や相談が必要です。

 

④癌以外でPSAが高値になる原因

以下の理由で良性でも上昇することがあり、「PSAが高い=癌が決定」などと怖がったり慌てたりせず、入院などの精密検査をするか、経過観察をするか、専門医に意見を聞くことも必要です。

◎加齢

ある健診データでは、平均値が50歳台で1.06ng/ml→80歳以上で2.48ng/mlと上昇しています。PSAは「4.00ng/ml以下が正常」とされていますが、80歳以上では「正常ラインは4より高めと考えて大丈夫」とされています。逆に50歳前後では3.00ng/ml以上の場合は、精査や注意深い経過観察が必要です。

◎前立腺の大きさ

PSAは前立腺サイズに比例する傾向があります。良性の肥大症で3、4倍に大きくなることは珍しくなく、例えばPSAが10.00ng/mlであっても、3倍のサイズであれば癌の可能性は高くありません。

◎前立腺炎

排尿痛、膿尿(炎症の濁り)がある炎症では、組織の崩壊でPSAが上昇します。排尿症状が強いからといって、癌を心配してすぐにPSA採血をせず、炎症をしっかり治すまで検査を待つ必要があります。

◎前立腺への刺激(射精・尿道カテーテル)

処置や手術でカテーテルを尿道に通したり、性生活や自慰行為で射精をすると、前立腺が刺激され、数日間はPSAが上昇します。

 

⑤父・叔父・兄弟が前立腺癌の方は注意!

前立腺癌は肺癌(喫煙)や肝臓癌(飲酒)と比較して、生活習慣での明らかな原因はありませんが、遺伝の関係はあり、父や兄弟に前立腺癌の方がいれば確率が2倍以上に高まります。家族歴がある場合は「40歳から」PSA検査をお勧めします。