奈良県医師会 山下圭造
健康診断や人間ドックの結果、テレビのCMなどで「eGFR」という言葉を見たり、聞いたりしたことがあるでしょうか。
最近ITやDXなど、やたらアルファベットを並べたような略語が増えて、拒絶反応を感じている方も多いと思いますが、eGFRは直訳すると「推算糸球体濾過量(すいさんしきゅうたいろかりょう)」とさらに難解となるため、腎臓の機能を表す「腎臓スコア」と考えれば良いでしょう。
腎臓は、体内で不要になった物質を尿として排出することを主な役割とする、いわば体内の浄水場です。内部に「糸球体」という多くの血管が糸玉状に密集した部分があり、休みなく血液を濾(ろ)過しています。左右の腎臓には毎分約1000㎖の血液が流入し、約100㎖の「原尿(げんにょう)」と呼ばれる濾過液が産出されます。
この1分間の原尿の産出量(浄水場の処理能力)を糸球体濾過量(GFR)と呼び、腎臓の機能を評価する判断材料としています。しかし、この数値の測定には時間と手間がかかるため、多くの人に定期的に測定し、その変化を観察するには適していません。
このような欠点をカバーするために、日常的な採血検査項目に含まれる「血清クレアチニン値」と年齢・性別から「推算したGFR」として考え出された値がeGFRです。eGFRが60以上はほぼ正常、60を下回ると程度の差はあれど、腎機能は低下していると考えます。
eGFR値と腎臓機能低下の目安 | |
eGFR値( ml/min/1.73m2 ) | 腎機能低下 |
90以上 | 正常 |
60~89 | 正常~軽度低下 |
45~59 | 軽度~中等度低下 |
30~44 | 中等度~高度低下 |
15~29 | 高度低下 |
15未満 | 末期腎不全 |
腎臓の機能低下は、高血圧、糖尿病、腎炎、多発性嚢胞腎(のうほうじん)など、様々な病気が原因となり引き起こされます。いずれの病気でも放置すると、eGFRは徐々に低下して末期腎不全に至ったり、心筋梗塞や脳卒中などの成人病の発症率・死亡率が高くなることがわかっています。
透析治療が必要な状況や成人病の発病を回避するために、原因の病気にかかわらず、腎臓の機能に着目して対策を考えようという方針のもと、「尿蛋白(たんぱく)が陽性」または「eGFRが60未満」が持続する状態を「慢性腎臓病(CKD)」と呼ぶようになりました。その人それぞれの腎臓機能レベルを把握し、それに応じた指導や治療を受けるために、eGFRは重要な指標といえるのです。
現在、わが国のCKD患者は1300万人を超え、透析治療を受けている人はおよそ33万人といわれています。腎臓の機能を一気に改善する特効薬がないため、悪化因子をできる限り排除して機能を温存することが大切です。
すべてのレベルのCKD患者さんに共通して、減塩食・禁煙・体重コントロールなどの生活習慣の改善が大切です。さらに高血圧・糖尿病・脂質異常などの基礎疾患があれば、それぞれの良好なコントロールが必要とされます。
また、腎機能低下が高度な人では、使用可能な薬の種類や量が制限を受けたり、食事指導の内容も変わってくるため注意しましょう。
この機会に健診結果の用紙を取り出して、ご自身のeGFRの数値と尿蛋白の有無を再確認されてはどうですか。