奈良県医師会 森岡敏一
急に動悸(き)や胸部不快感が起こって来院される患者さんの中では、「心房細動」が最もよく見受けられます。脈の間隔が不規則で、頻脈(心拍数が多い状態)なのですが、比較的元気で歩いて来る人がほとんどです。
発症率は40歳で1%、70歳で5~10%程度で、高齢になるほど多くなります。心房細動は自然に治ることも多く、再発する方は半分ぐらいです。一方で、何度も再発したりずっと続く方もあります。
7日以内に止まるものを「発作性心房細動」、7日以上続くものを「持続性心房細動」、治療しても止まらないで続くものを「永続性心房細動」と呼びます。止まらなくても、時間が経つと心拍数は徐々に低下して動悸症状は軽くなり、中には「治った」と思い違いする方もあります。また、いつ発症したのか分からない、無症状の心房細動の方を見かけることもあります。
心房細動とは、どんな病気なのでしょうか。
心臓は心房と心室に分かれ、交互に収縮と拡張を繰り返しています。これは電気信号が正しい経路で伝わることにより維持されています。もし、電気信号が急に心房内を迷走しだすと心房全体が細かく震え、正常な収縮が起こらなくなります。これが心房細動という状態です。心室は正常に収縮するので、頻脈になっても血圧が急に下がって、失神やショックを起こしたりすることはありません。
心房細動が持続する場合や、再発を繰り返す場合にはどうすれば良いのでしょうか。
細動を起こしている心房の中では、血液が固まって血栓ができやすい状態になります。血栓が飛んで脳の血管に詰まると、重篤な脳梗塞(こうそく)を起こしてしまいますので、血栓を予防する抗凝固薬を投与します。
頻脈が続くと、動悸で不快なだけでなく心臓が疲れて収縮が弱くなり、心不全を起こすこともありますので、内服薬で心拍数をコントロールする治療も重要です。心房細動をすぐに止める薬はありませんが、坑不整脈薬がある程度有効です。
電気ショックをかけると一時的には止まりますが、血栓を飛ばしてしまう危険があり、十分な検査をしてからでないとできません。止まってもすぐに再発することもあります。
最近「カテーテルアブレーションによる治療法」が確立され、専門病院ではよく行われるようになりました。これはカテーテルという細い管状の器具を血管から心房内に挿入し、部分的に熱で変性させて、細動の原因となる電気信号を遮断して治す手術です。再発も起こらなくなり、安定すれば薬も必要なくなる根本的な治療ですが、数日間の入院が必要です。心房細動の治療は、年齢・症状・再発の頻度・他の心疾患(心筋梗塞や弁膜症)の有無によって、個々の患者さんに最適な方法が選ばれます。
できるだけ心房細動を起こさないようにするには、どうすれば良いでしょうか。
高血圧や甲状腺疾患、糖尿病などの基礎疾患があれば、きっちりコントロールしてください。飲酒や睡眠不足も危険因子です。心筋梗塞や弁膜症・心筋症などの疾患がある人は、必ず定期的に診察を受けてください。大切なのは、症状が良くなったからといって、自分の判断で放置しないで治療を続けることです。