感染症に強いからだをつくる

奈良県医師会 水野文子

新型コロナウイルス患者が確認されて3年半、世界中がコロナに振り回されました。今後もこのような新興(=新しく起こる)感染症は必ず発生します。過去に流行した感染症が再び流行することもあります(再興感染症)。現在、日本にはない感染症が、グローバル化で国内に入ってくることもあります。

新しい感染症に対し、個人に感染防御力や免疫力が獲得されるまで、社会に治療薬やワクチンが行き渡るようになるまでの間、私たちは生来備わっている感染防御力・免疫力で対抗しなければなりません。

病原体は、身体の表面の粘膜や皮膚、鼻腔(びくう)や気管などから入ってきます。

まつげや鼻毛も大きなゴミや異物の侵入を防ぎますが、鼻の中の細胞にも微細な線毛があり、ほこりなどを体外へ押し出すように動いています。気管や気管支を形作る上皮の細胞にも線毛があり、不要なものは外へ追い出します。

涙や唾液には「リゾチーム」という酵素が含まれています。リゾチームは、細菌の一番外側にある細胞壁を分解して殺菌します。

その他、体表面や粘膜表面で働く「ディフェンシン」、「カテリシジン」や汗に含まれる「デルモシジン」などの「抗菌ペプチド」が病原体を分解します。

涙などで、物理的に病原体を排除することもあります。

膀胱(ぼうこう)に細菌が入り膀胱炎になった時も、排尿することで物理的に病原体を流し去ります。腸管感染症でも、下痢によって原因となる細菌を外に追い出します。

○紫外線を遮りながら、外に出ましょう

傷のない健常な皮膚も、外界からの多くの病原体の侵入を防ぎます(ごく一部、正常な皮膚から侵入するものもある)。また、皮膚の角質の新陳代謝によって、皮膚に付着した病原体が古い角質と共に剥(は)がれ落ちます。

健康な皮膚の感染防御作用、鼻腔や気管などの気道上皮の線毛の働きは、外界の刺激を受けることで鍛えられます。

○いろいろな食品をバランスよく摂りましょう

近年「免疫力を高める」食品が話題になりますが、日ごろからそれぞれの栄養素を含んだ食品をきちんと摂(と)ることも大事です。

特にタンパク質は、感染初期に働く抗菌ぺプチドやリゾチームなどの酵素を作るもとになります。

病原体の侵入を防ぐための丈夫な皮膚・粘膜も、タンパク質からできています。ダイエット等で糖質を制限し過ぎると、その代わりにタンパク質がエネルギー産生に使われてしまいます。

ビタミンDや亜鉛は、免疫(担当)細胞であるマクロファージやNK(ナチュラルキラー)細胞を活性化する、抗菌ペプチドの産生を促す、ウイルス感染症で働くIFN(インターフェロン)などを合成するのに少量でも必要とされています。

○適度にからだも動かしましょう

運動をして血液の流れがよくなると、栄養分だけでなく感染症の初期に働く免疫細胞も身体の隅々にいきわたり、不意の感染に備えることができます。

○ゆっくり眠りましょう

交感神経・副交感神経は、身体の調子を整えています。ストレスがあると交感神経が主に働き、ウイルス感染症で役立つリンパ球は増えません。睡眠時など副交感神経が優位の時、リンパ球数は増加します。

○大いに笑いましょう

副交感神経がよく働く場面の一つに「笑い」があります。笑うことは、ウイルス感染やがん免疫で働いているNK細胞の活性化にも役立つことがわかっています。