舟状骨骨折

奈良県医師会 瀬戸靖史

舟状骨(しゅうじょうこつ)は、手首の親指側にある小さな骨です。ここの骨折は見つかりにくく、また治りにくい厄介な骨です。

スポーツや交通事故などで後ろ向きに転倒して、手をついたときに起こりやすい骨折で、10~20歳台に多く見られます。手首の親指の付け根あたりが腫(は)れて痛みます。

また、“解剖学的嗅(か)ぎタバコ入れ”と呼ばれる部分(親指を反(そ)らした時に手首にできる、三角形の凹(へこ)んだ所)を押さえると痛みが強く出ます。

舟状骨は名前の通り、舟底のように湾曲した骨で、しかも他の骨に比べて45度斜めになっている形状から、普通のレントゲン検査では骨折が判(わか)らない場合があります。後から骨折が判る場合や、CTやMRIなどの精密検査をして初めて骨折が判明する場合もあります。

また、元々血行が悪い骨で、骨折した場合、その先に栄養が行かなくなり、骨がつながらないだけでなく、骨が潰(つぶ)れていくことがあります。そのため、舟状骨骨折が疑われた場合には、例え骨折がはっきりしていなくても、予防的にギプスを巻く場合があります。それほど慎重に扱われます。

放っておいても勝手につながる骨折もありますが、この骨は違います。ケガをした直後、骨折があまりズレていない時は、さほど痛みは強くなく、しばらくすると痛みは軽減し、捻挫(ねんざ)と勘違いされることがあります。しかし動かしていると、徐々にズレてきて痛みが強くなっていきます。

先述のように舟状骨骨折は治りにくいので、骨折したところで骨がつながらず、ズレがどんどん強くなり、周りの骨に影響して関節の変形を来たし、痛みが残ってしまう、手首の動きが悪くなってしまう、といった障害が残ることがあります。

治療は、受傷後早期であれば、ギプス固定による治療も可能な場合もありますが、治りにくいため、長期(6週間以上)の固定を要します。関節が硬くなったり、筋力が低下したりするため、リハビリも長期を要します。そのため、早期のスポーツ復帰、社会復帰を目的に特殊なネジを用いた手術的治療が選択されることも多いです。

転倒して手首を骨折するのは、高齢者に限ったことではありません。特にサッカーなどの動きの激しいスポーツをしていて、後ろ向きに転倒して、手をついたときは要注意です。

早期診断、早期治療が大切ですので、お近くの整形外科へ受診をお勧めします。