HIVについて知ろう ~12月1日は世界エイズデー~

奈良県医師会 宇野健司

12月1日は「世界エイズデー」であり、街中で“レッドリボン”が多くの場所で見られます。皆さんも“レッドリボン”を探してみてください。

“レッドリボン”がエイズ(HIV)のために使われ始めたのは、アメリカでエイズが社会的な問題となってきた1980年代の終わりごろでした。このころ、演劇や音楽などで活動するニューヨークのアーティストたちが、仲間たちに対する追悼の気持ちとエイズに苦しむ人々への理解と支援の意思、連帯を示すため、赤いリボンをシンボルとした運動が始まりました。

HIV感染症は、40年前とは全く違う病気となるほど変化を遂げました。これまでは「罹(かか)ると死ぬ病気」と位置付けられていましたが、最近はお薬が劇的によくなり、陽性者は1日1錠、薬を飲むだけで治療でき、安定した状態で社会生活を送れるようになりました。

さらに、2か月に一度の注射をすることで、薬さえ飲まなくてよいという治療も出てきました。早期に判明した時から治療を開始すると、HIVに感染していない人と平均余命はほぼ同じである報告も出ています。

最も最近の研究では、ウイルスが血液中に検出できない状態であれば、コンドームなしの性行為をしても感染しないということもわかっています(U=U:Undetectable(検出しない)=Untransmittable(うつらない)と表記されます)。

いわんや、日常生活で感染することはありません。つまり、HIV陽性者は「糖尿病を持病に持っている人」「高血圧を持病に持っている人」と全く同じ状態なのです。

世界では、2022年の1年間で新たに約130万人が感染していると推定されています。この数は多くのキャンペーン・活動により減少傾向にはありますが、2030年までに新規感染を0(ゼロ)にしようという目標には到達できないと考えられています。

新規感染した方は、サハラ以南のアフリカでは63%が女性であるのに対して、そのほかの地域では70%が男性であり多くがゲイ男性です(UNAIDS 2022 Factsheet)。

日本では2022年、新たに感染が判明したのは884人であり、日本での累計は約34000人と報告されています。新たに感染した方は初めて1000人を切ったのですが、これは全国的にCOVID-19の影響で保健所機能が低下したことと関連があるかもしれず、本当に数が減少したのか注視していく必要があります。

まだまだHIVは世界的に制圧すべきウイルスなのです。

また、HIV陽性の方は、自分がHIVであること、セクシャルマイノリティであることなど、多くのことで生きづらさを感じています。HIVをを持っていることでいわれの無い差別があったことも報道されています。このようなことがあると、社会から疎外される可能性があることを恐れ、HIV陽性者はさらに孤立してしまいます。

これら差別・偏見に打ち勝つためには正しい知識と違いを受け入れる寛容さが必要とされます。このコラムを読んでいただいた方にその寛容さが生まれ、「普通に隣に居る」存在となっていただければと思います。