認知症

奈良県医師会 山下圭造

私たちの身体は、子どもの頃から成長・発達を繰り返して成熟していきますが、ある頃から徐々に身体機能が低下し始めます。個人差はあるものの身体機能のピークは意外と早く、20~30歳台を境に低下し始めます。

「老化」の始まりです。

スポーツ選手などは成績が落ち始めて引退を余儀なくされますが、一般の方が日常生活に不便を感じるのは、50〜60歳台になってからです。

 

・運動機能…肩、腰、膝などの関節に痛みを感じるようになり、つまずきや転倒が増えてきます。

・心肺、内臓機能…軽い運動でも息切れを感じたり、トイレが近くなったり、便秘がちとなります。

・知覚・感覚機能…細かい文字が見えづらくなり、小さい音が聞こえなくなります。

・免疫機能…風邪などの感染症からの回復が遅くなり、癌の罹(り)患率や帯状疱疹(たいじょうほうしん)の発症率が増えてきます。

・認知機能…忘れ物が増え、人の名前が出てこないこともしばしばあります。何をするにも段取りに時間がかかるようになってきます。

 

いずれの機能が低下しても、生活の質が低下して不自由を感じたり、不安になったりします。特に認知機能は、記憶や思考、理解、判断など、人が社会生活を営むために欠かせない機能で、程度が進んで日常生活に支障をきたすようになった状態が「認知症」です。

食事、着替え、入浴、排泄(せつ)などの日々の行為ができなくなったり、今までできていた服薬や金銭の管理ができなくなると、見守りや介助が必要になります。

認知症は介護が必要となる原因の第一位となっているのです。

 

わが国では人口の高齢化が急速に進み、65歳以上の約20%が認知症になると考えられています。多くの場合、老化による認知機能の低下(もの忘れ程度)から認知症に、年月をかけて徐々に症状が強くなっていきます。

この移行期、すなわち「普通のもの忘れではないけれど、日常生活には支障がない状態」を認知症予備軍として「軽度認知障害」と呼び、この状態での診断、治療の開始が重要と言われています。

現状の認知症治療は「症状の進行を遅らせる」ものが中心で、近い将来、導入が期待されるとの報道があったアルツハイマー病の根本治療薬も、症状が進行してからでは効果が低いようです。

 

自分自身、または家族など周囲の人が「ちょっとおかしいな」と気づいた時、または数ヶ月ぶりに会った知人から「ずいぶん変わったね」などと指摘された時などは注意が必要です。

 

「軽度認知障害」と診断された場合、「5年後には約50%が認知症になり、約10%は正常に回復、残りの約40%は現状を維持する」と言われています。

日常生活が自立しているこの時期での治療介入(薬物治療、脳トレ、運動療法、成人病の管理など)がより効果的です。認知症を疑った場合は早い時期に、かかりつけ医に相談しましょう。

また、各自治体には、地域包括支援センターや認知症ケアパスが用意され、状態に応じたアドバイスや支援を提供してくれます。