奈良県医師会 中垣公男
(症状)
首や背部の痛みが主な症状ですが、進行すると上肢(し)のしびれや痛みがでて手や足の動きも悪くなることがあります。
(病態)
首の骨と骨の間にはクッションの役割をもつ椎間板(ついかんばん)が存在します。「ヘルニア」とは体内の臓器や器官が本来の位置からずれた状態を指します。それが椎間板で起こったものが「椎間板ヘルニア」です。
椎間板の中心の髄(ずい)核と呼ばれる柔らかい組織が老化して後ろに飛び出して脊(せき)髄や神経根を圧迫して症状を出します(図)。
(原因)
椎間板が老化で傷んで後ろに飛び出して起こります。30~50歳台に多く、無理な姿勢を取るスポーツで起こることもあります。
しかしながら最近、遺伝の素因が最も重要であることがわかってきました。1998(平成10)年ビタミンD受容体遺伝子が椎間板ヘルニアの疾患関連遺伝子である可能性が指摘されました。
椎間板ヘルニアの遺伝子研究はまだ解明されたとはいえず、今後、全遺伝子を対象として幅広い範囲や分野などにわたって解析がなされることが期待されます。
(診断)
首を斜め後方へ反(そ)らすと上肢に痛みが響くことが特徴です。MRIで診断を確定します。
頸椎椎間板ヘルニアの症状は大きく2つに分けられます。「神経根症」と「脊髄症」です。
1)片方の上肢が痛む「神経根症」
神経根症は、背骨を走る神経から左右に伸びた神経根をヘルニアが圧迫して起こる症状で、片方の上肢に痛みが出てきます。
2)両方の手や肩、足などにしびれや痛みが起こる「脊髄症」
脊髄症は、神経が束になった脊髄部分の中央をヘルニアが圧迫し起こる症状で、神経根症と異なるのは、両手や肩、足などにしびれや痛みが起こり、歩きづらい▷ボタンが留められない▷お箸が使いにくい▷字が書きにくい―などの運動障害を起こします。
(治療)
痛みが強い時期には首を安静にします。鎮痛剤を使用し、神経の近くに痛み止めや炎症止めの注射を行います。
頸椎カラーで頚部を固定したり牽引(けんいん)治療を行うこともあります。喫煙すると神経の血行が悪くなるので禁煙を勧めます。
多くは数か月程度で自然と治癒していきます。しかし、激しい運動をしているなど、椎間板に衝撃を受ける毎日を送っていると自然治癒は期待できません。これらが無効で痛みが強く長く続く場合や、手足が動きにくくなれば、自然治癒を待たずに手術を行います。
1)レーザー治療
椎間板に針を刺入し髄核にレーザーを照射して空洞をつくり、椎間板を縮ませ神経の圧迫を減らす方法です。しかし保険適応はなく、20万円以上の費用が掛かることもあります。
2)頸椎椎弓(ついきゅう)形成術
神経に対する圧迫を除去するために、骨成分である脊椎の椎弓と呼ばれる部位に溝を掘って脊柱管を拡大する手術です。内視鏡でできる場合もあります。
3)頸椎前方固定術
ヘルニアが正中(せいちゅう=体の左右の真ん中のライン)にあり、後方からのアプローチが難しい場合、頚部の前方から椎間板を切除し、骨を移植してプレート(チタン製の金属の板)で固定を行います。
(図)