奈良県医師会 山本忠彦
インフルエンザや新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、咳(せき)止め薬の使用が増えて、医療機関で薬が不足し処方しにくい状態が続いています。咳の原因の診断をおろそかにして、重症軽症に関わらず、安直に咳止めを使うのは考え直す必要があるかもしれません。
インフルエンザやコロナなどウイルスが原因の上気道炎は、広く「カゼ症候群」と呼ばれています。カゼは普通の健康状態であれば、自分の免疫力で自然に治ります。
咳は人体の防御反応の一つであり、口や鼻からカゼの原因となるウイルスが侵入し喉(のど)で炎症を起こしているので、それを排出しようとして咳をしているのです。痰(たん)があるときはさらにそれを出そうとして咳をしているのです。そういった自然の反応である咳が軽度の場合は、無理に止める必要はありません。
さらに咳止めには、咳を止めるだけではなく、いろいろな内臓の動きを止める副作用が出ることがあります。腸の動きを止めて便秘したり、おしっこを出す働きを止めて尿が出にくくなったり、唾液の分泌を止めて口が乾いたりすることがあります。
使用量や日数が増えるほど、これら副作用が強く出ます。副作用が出ない範囲で適度に使うのが良いと考えます。
また、本当に咳止めがカゼの咳に効果があるのかはよく分かっていません。カゼ自体は薬を使わなくても治る病気であり、本当に咳止めが効いたかどうかは、比較対照試験が必要ですが、大規模な試験はこれまで行われていないようです。
私自身の経験となりますが、咳がつらいときはハチミツをおすすめします。ハチミツは市販の咳止めと比べて、同じぐらいの効果があるという比較対照試験があります。友人のイギリス人は、カゼをひいたときは紅茶にハチミツを入れて飲むそうで、とてもオシャレですね。ハチミツでなくても甘いシロップでも同様の効果あるようです。実際には2から3グラム程度のハチミツを白湯に溶いて飲むと良いですが、糖分なので虫歯に注意しましょう。ただし、ハチミツは一歳未満の乳児には与えないでください。乳児は腸内細菌叢(そう)が未発達のためボツリヌス中毒の危険があります。
繰り返しますが、基本的にカゼは自分の免疫力で回復する疾患です。長引かせないためには無理をせず、しっかり休息をとることが大切です。
なお、慢性肺疾患などのため、咳が病状を悪化させ生活に支障をきたし、どうしても咳を止めたいという人がおられます。その人にとって咳止めは必要な薬です。必要な人に必要な薬が行き渡るように、ご自身のその症状に本当に咳止めが必要かどうか、今一度考え直してみてください。