奈良県医師会 赤井 靖宏
「全身性エリテマトーデス(SLE)」は、わが国で6~10万人の方が患っているといわれている自己免疫疾患(「膠原(こうげん)病」とも言われます)の代表的病気です。この病気は20~40歳台の女性に発病することが多く、その年齢層での患者さんの男女比は1:9くらいです。
一方、これ以外の年齢(つまりお子さんや高齢者)では男性でもこの病気になる方が多くなり、男女の差が小さくなる傾向があります。
SLEは、本来外敵から守ってくれる役割を果たす細胞や蛋白(たんぱく)質などが、間違って自分自身を攻撃してしまうことで病気になると考えられています。つまり、免疫の仕組みが「反逆」を起こしているのです。なぜこのようなことが起こるのかはいまだにわかっていませんが、風邪などのウイルス感染や妊娠・出産をきっかけに病気になる場合があることがわかっており、これらが何らかの仕組みで病気に関連していると考えられています。
一方、同じ遺伝子を持つ一卵性双生児の場合でもSLEが双生児の両者に起こる確率は20~60%程度であり、遺伝子ですべてが決まるわけではなさそうです。したがって、この病気は遺伝する病気ではないと考えられています。
SLEは、発熱、倦怠(けんたい)感、日光過敏症(強い紫外線にあたった後に、熱が出たり皮膚に赤い皮疹〈ひしん〉ができたりする)、口内炎や脱毛などに加えて、関節症状(主に手指が腫〈は〉れる)、皮膚症状(両頬から鼻にかけて蝶が羽根を広げたような赤い皮疹(蝶形紅斑〈ちょうけいこうはん〉)や頭や耳などにできるレコード盤様の皮疹)、精神神経症状や多彩な臓器障害(腎臓、肺、心臓、消化管など)を起こします。
これらの症状はすべてのSLEの方に同じように出るのではなく、人によって症状や臓器障害には違いがあります。
SLEの診断には、このような症状に加えて、血液検査が有用です。血液検査を行うと、「抗核抗体」がSLEの方ほぼすべてに認められます(ただし、抗核抗体があるからSLEというわけではありません)。
また、抗核抗体をもう少し詳しく分類したDNA抗体やSm抗体などが認められる場合もあります。これらはまとめて「自己抗体」と呼ばれ、前述した免疫の異常に関連して血中に出現すると考えられています。
SLEの治療はこの10年くらいで大きく進歩しました。ステロイド(副腎皮質ステロイド)が唯一の治療薬である時代が大変長く続きましたが、今ではステロイド以外の多彩なお薬が使えるようになりました。
その結果、今ではステロイド(今でも重要な薬であることには変わりありません)を早く減らすことができるようになり、ステロイドをやめることができる場合も増えてきました。
SLEの薬は、「免疫抑制薬」に分類されるお薬がほとんどです。ステロイドもこの分類に含まれますが、最近のお薬は、ステロイドのように免疫の働きを全体的に抑えるのではなく、病気に関係する部分だけを抑える働きがあります。新たな免疫抑制薬をステロイドに併せて使うことで、ステロイドを早く減量し、ステロイドの副作用を減らすことができるようになりました。
SLEが疑われる症状がある場合には、早期に診断を受けて、早期から適切な治療を受けることが大変重要です。