熱中症

奈良県医師会 松村榮久

■熱中症とは:暑い環境に適応できず、体調を悪くすることです。二つのタイプがあります。

一つは、高温環境下での運動や労作で発症し、炎天下でのスポーツ、草刈り、畑仕事が典型的です。

もう一つは、冷房のない暑い部屋内で労作と無関係に発症し、大半が高齢者です。高齢者では若い人に比べると、暑さや口渇を感じにくく「ワシは暑くない」と言われます。「暑さに注意」「のどが渇いたら水分補給を」と声をかけても、そもそも感じていないのですから、予防が大切です。

 

■症状:暑い環境に居る際に(もしくはその後に)、めまい、立ちくらみ、多量発汗、筋肉痛、頭痛、嘔吐(おうと)、意識もうろう、高体温などが生じます。

 

■重症度:軽症では筋肉痛、筋けいれん(こむらかえり)がみられ、発汗による水分と塩分喪失が関係します。体温の上昇はないか、あっても軽度です。

中等症では頭痛、はき気、嘔吐、意識もうろう、高体温となります。

重症では意識障害、高体温(時に40℃以上)となり、脱水のため発汗はみられません。いったん体温調節が崩れると、肝臓や腎臓などの臓器障害が出現し進行して、命を失います。

 

■対応:「アイス」と覚えると便利です。アイス=冷やす(涼しい場所へ移動、風にあたる、アイスノンや氷嚢〈ひょうのう〉などで首の周りや脇の下などを冷やすなど)。安静(ア)急いで(イ)水分補給(ス)を行います。

自宅で様子を見て良いのは軽症まで、中等症は病院受診、重症は救急車で病院搬送が必要です。

 

■熱中症の際の水分補給:まずは手近にある水やお茶を飲みましょう。1リットル以上の多量の発汗の際には、水分に加えて塩分の補給が必要です。汗1リットルに食塩約3gが含まれます。

市販の経口補水液では「オーエスワン」が1リットル当たり食塩3gとブドウ糖25gを含み、程よいです。水やお茶1リットルに食塩3gと砂糖25gを混ぜ、手作りも可能です。

市販のスポーツドリンクは、食塩が約30~40%で多量発汗時の補給としては少なく、糖が約2~2.5倍と多いです。コーラやサイダーは食塩がゼロ、糖が4倍以上あり不向きです。

清涼飲料水を毎日多量に飲んで糖尿病(俗称:ペットボトル症候群)を発症することがあり気をつけましょう。

なお、塩分補給はあくまで多量発汗の際であり、ふだん涼しい部屋で過ごしている際の水分補給は水やお茶で十分です。

 

■新型コロナとの区別:新型コロナ感染症では体温上昇に先立ち、のどの痛み、せき、ふしぶしの痛みを伴うことが多いです。ただ、軽い風邪気味の人が畑仕事をした場合の体温上昇では、区別が難しいです。まずは上記初期対応「アイス」をしてください。1時間経っても高体温(38℃以上)であれば、病院受診をしましょう。

なお、熱中症には解熱剤は無効、むしろ有害なこともあり、使用しないのが賢明です。

 

■最後に:今年は例年以上に猛暑日が続いています。熱中症は予防と早めの発見、対処につきます。暑さを感じにくい高齢の方々は、涼しい環境で過ごして夏を乗り切ってください。