ばね指

奈良県医師会 瀬戸靖史

「ばね指」とは、手を広げようとした時に、一部の指だけがスムーズに伸びきらず、途中で引っ掛かりばねのように弾けて伸びる現象で、腱鞘(けんしょう)炎の悪化した状態です。
指を曲げ伸ばしする動作は、腕の筋肉が伸びたり縮んだりする働きを腱で指先の骨に伝えることにより行われています。ただ引っ張るだけでは腱が浮いてしまうため、これを押さえつけて、曲げる方向に力を伝えるトンネル状の組織(腱鞘)がところどころにあります(下図)。リール竿の輪(ガイドリング)やズボンのベルトを通す輪(ベルトループ)のような構造です。
手指に過労が重なると、腱と腱鞘が擦れて炎症を起こし、痛みが生じます。最初は、朝起きた時に手指が強張(こわば)る、腫(は)れぼったい程度ですが、悪化すると腱や腱鞘が腫れて引っ掛かり、弾けるような動きが出てきます。これがばね指です。
さらに悪化すると、指の関節の動きが悪くなります(拘縮:こうしゅく)。痛む場所は様々ですが、原因となる腱鞘炎は、指の付け根の手の平の腱鞘で起こることが多いです。
家事等、手作業が多い女性に多く見られ、またホルモンバランスの影響も受けるため、更年期、妊娠、出産後の女性に多く見られます。親指、中指、薬指に発症することが多いです。
治療の第一は指の安静です。消炎効果のある湿布や塗薬も有効です。指が痛むことも多いですが、原因は手の平の腱鞘です。弾発を繰り返して指の関節が腫れたり、関節が硬くなることで、指に痛みが強く出ることもありますが、原因である手の平に炎症を抑えるお薬を染み込ませる必要があります。
手の平を強く揉(も)むことは避けてください。硬くなった腱鞘を解(ほぐ)そうと強く揉まれ、余計腫れて悪化することが多々あります。痛みが強い時は夜間のみ、副子(そえこ:添え木)を充てて固定したり、炎症を抑える薬を注射したりすることもあります。
また、痛みで生活に支障を来(きた)している場合は、手術的に腱鞘を切開して、腱の通りを良くしてあげる治療法もあります。
放置しておくと関節が硬くなってしまい、腱鞘を切開して腱の通りが良くなっても、拘縮が残ってしまう場合があります。指に引っ掛かり感が生じたら、お早めに整形外科に受診していただきますようお勧めします。

 

(図)
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