マダニに咬まれて肉アレルギー

奈良県医師会 山本忠彦

季節はめぐり涼しくなり、野山に出かける機会が増えてくると気を付けなければならないのが「マダニ」です。

マダニに咬(か)まれて引き起こされる病気として、「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」や「日本紅斑熱」などの感染症が有名ですが、肉アレルギーを起こしてショックとなることがあり最近注目されています。これは、マダニに咬まれるとその唾液に含まれる「α-gal(アルファガル)」に対するIgE抗体が体内で作られ、この抗体が肉に含まれるα-galと反応してアレルギー反応を引き起こすためです。「α-gal症候群」と呼ばれています。

肉をよく食べるアメリカやオーストラリアでは、新たな肉アレルギーとして注目されていますが、あまり知られていないため正しく診断されないことがあるようです。マダニに咬まれるのが一回だけなら抗体は減弱していきますが、複数回の咬傷で増強されるため反復して咬まれることを避けなければなりません。これまでお肉を食べても大丈夫だった人に突然アレルギーが生じるため、最初はなにが原因かわからない場合が多いです。

お肉は、牛肉や豚肉など哺(ほ)乳類の肉で起こりますが鶏肉は大丈夫です。だだ、鶏肉ソーセージであってもその皮が豚の腸であれば危険です。乳製品やゼラチンが含まれているお菓子や薬のカプセルも避けます。「セツキシマブ」という結腸癌(がん)や頭頸(けい)部癌に使われる薬品にもα-galが含まれており注意が必要です。

さらには、カレイの卵にもα-galが含まれていることがわかり、いわゆる子持ちカレイの煮つけを食べたあとにアナフィラキシーショックが起こった例が、先日某テレビで紹介されていました。通常の食物アレルギーは食べてから数十分後に発症することが多いのですが、α-gal症候群は通常2時間以上経過してから出現するため、夕食後の就寝中に起こったりします。このため食事が原因とすぐに気が付かないことがあります。

症状はじんま疹(しん)や息苦しさ、嘔気(おうき=はきけ)などです。血圧低下や喘息(ぜんそく)、呼吸困難、嘔吐(おうと)、腹痛など、アナフィラキシーを疑わせる症状があるときは即座のエピネフリン注射が必要になるため、一刻も早く病院を受診してください。

このアレルギーは血液型がB型またはAB型には起こりにくく、主にA型とO型に発症します。これはB型やAB型の人は体内にα-galとよく似た構造物をもっており、抗体ができにくいためです。α-galに対する特異抗体は、現在はごく一部の施設でしか測定ができず保険適応でないため、その確定診断は困難で多くは臨床症状から推測することになります。

食肉をさけて数年マダニに咬まれないようにすれば徐々に抗体は減少して、だんだんとお肉が食べられるようになりますので、マダニに咬まれないように気を付けましょう。

野山に行くときは肌の露出は避けて、長袖、長ズボンを着用し帽子や手袋を利用しましょう。マダニに有効な虫よけスプレーもあります。