奈良県医師会 久下博之
「ロボット支援下手術」は、外科医が手術ロボットシステムを操作して患者さんに外科手術を行う方法です。患者さんに直接触れる「ペイシェントカート」、術者が操作する「サージョンコンソール」、電気メスなどを接続する「ビジョンカート」の3つの機器で構成されています。
この技術は従来の開腹手術や腹腔(ふくくう)鏡手術に比べて、精度が大幅に向上している点が特徴です。
以下に、その主要な特徴を解説します。
1.高精度かつ精緻(ち)な操作
最も大きな特徴は、高精度かつ精緻な手術操作が可能であることです。ペイシェントカートに装着されたロボットアームは、外科医の手の動きを手ぶれなく忠実に再現し、人間の手では不可能な精度での操作を実現します。
特に、人間の手が入りにくい狭い空間へ安全に到達でき、極小の構造物を操作する際にもその優位性を発揮します。これにより外科医は細かな神経や血管を避けながら、精度の高い手術を行うことができるため臓器の機能を温存しやすくなります。
2.三次元視覚化システム
サージョンコンソールには、三次元(3D)視覚化システムが組み込まれており、手術部位を高解像度で立体的に視認することができます。サージョンコンソールに座った外科医は術野の三次元立体映像を見ながら手術を行い、通常の二次元画像では見えにくい構造物を詳細に観察できます。
この視覚化により、手術中の誤差が減少し、判断が迅速かつ的確に行えるようになります。
3.患者さんの体へのダメージが少ない
患者さんの体への負担を最小限に抑える“低侵襲性”が特徴です。従来の手術では大きな皮膚の切開が必要でしたが、ロボット支援下手術では小さな切開でロボットアームを挿入するため、傷口が小さくて済みます。
この結果、術後の痛みや出血が少なく、入院期間が短くなることが多いです。傷跡も小さく目立たないため、美容的にも優れています。
4.外科医の負担軽減
ロボット支援下手術は外科医自身の身体的負担を軽減する利点があります。手術中、外科医はサージョンコンソール、手術助手はペイシェントカート横に座りながら手術を行うことができるため、長時間の手術でも体力的な負担が少なく、集中力を維持しやすいです。
また、操作が精密であるため、疲労によるミスのリスクも低減されます。
現在、日本国内において「ダビンチ」と呼ばれる手術ロボットが多くの病院の手術室で稼働しており、年々手術件数が増加しています。泌尿器科の前立腺(せん)、腎臓、膀胱(ぼうこう)がん手術、消化器外科の食道、胃、肝臓、膵(すい)臓、大腸がん手術、婦人科の子宮がん手術、呼吸器外科の肺がん手術など幅広い術式で公的保険適応となり、通常の保険診療として手術を受けることができます。
ロボット手術は患者さんと医師の双方にとって多くの利点をもたらし、医療の質の向上に貢献しています。近い将来、少しずつ従来の手術から置き換わり、さらに多くの患者さんがこの手術を受けることができるようになると期待されています。