奈良県医師会 中垣公男
顎骨壊死(がっこつえし)とは、あごの骨の組織が死んで腐った状態になることです。あごの骨が腐ると、口の中にいる細菌による感染が起こり、あごの痛み、腫(は)れ、 膿(うみ)が出るなどの症状が出現します。
薬剤関連顎骨壊死は、薬剤の影響で8週間以上存在する下顎骨(かがくこつ)または上顎骨(じょうがくこつ)が露出した口腔病変と考えられています。さまざまな薬剤(ビスホスホネート系薬剤、抗がん剤、がん治療に用いるホルモン剤、副腎皮質ステロイド薬など)により、骨壊死が生じることがあります。
最近は、「ビスホスホネート」と呼ばれる骨粗鬆(こつそしょう)症の薬剤と顎骨壊死との関連性が注目されています。骨組織は古い骨が壊され新しい骨に置き換わります。ビスホスホネートは、生体内で骨を壊す破骨(はこつ)細胞の活動を阻害することにより骨密度を増加させます。骨の作り変えが抑えられ、新しい骨に置き換わることなく骨細胞の寿命を迎え、顎骨壊死が発症しやすくなります。
ビスホスホネート系薬剤には、注射薬と内服薬があります。注射薬は悪性腫瘍(しゅよう=がん)の骨への転移や悪性腫瘍による高カルシウム血症に使われ、内服薬は骨粗鬆症の治療に用いられています。
ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死は、歯茎の一部の骨が露出します。無症状の場合もありますが、感染が起きると、痛み、あごの腫れ、膿が出る、歯のぐらつきなどの症状が出現します。 経口ビスホスホネートを服用している骨粗鬆症患者において、年間10万人に約1人顎骨壊死が発症しています。
ビスホスホネート系薬剤の投与を受けていて、「口の中の痛み、特に抜歯後の痛みがなかなか治まらない」、「歯茎に白色あるいは灰色の硬いものが出てきた」、「あごが腫れてきた」、などの症状が出現した場合は、早く医師、歯科医師に相談してください。 ビスホスホネート系薬剤投与による顎骨壊死は、抗がん剤治療や副腎皮質ステロイド薬の使用、抜歯、歯槽膿漏(しそうのうろう)に対する外科的な歯科処置、あご付近への放射線治療を受けている場合に生じやすいとされています。
さらに、顎骨壊死は口の中が不衛生な状態において生じやすいとされています。従って、ビスホスホネート系薬剤の投与を受けている患者さんは、定期的に歯科を受診し、歯茎の状態のチェックを受け、口腔清掃の指導、歯石の除去を受けておくことが大切です。その際には、 ビスホスホネート系薬剤の投与を受けていることを歯科医師に伝えてください。
顎骨壊死の初期の治療は抗菌剤処方や洗浄です。進行すると壊死骨切除など手術が必要です。抜歯時に休薬するかは自分で判断せずに、医師や歯科医師と相談することが大切です。
ただ、一度発症すると完全に治癒するのは困難です。従って、日頃の予防が極めて大切です。
ビスホスホネート系薬剤による治療を受けている患者さんは、あごの病変が生じる可能性があることとその予防法を知っていただき、歯科医による定期的なチェックを受けられることをおすすめします。