健診と脂質検査(コレステロール・中性脂肪の値に注目しましょう)

奈良県医師会 井戸芳樹

企業・住民健診では、脂質検査として、HDLコレステロール・LDLコレステロール・中性脂肪値が結果として返ってきます。
LDLコレステロール(以下:LDL-C)は、動脈硬化の原因物質であり、長い年月をかけて血管の壁の間に入り込み、動脈硬化を起こし心筋梗塞や脳梗塞などの疾患の原因となります。また、動脈硬化を起こす原因にはLDL-Cだけではなく、糖尿病や高血圧、喫煙等もあります。心筋梗塞や脳梗塞にすでにかかった人は、LDL-C値は100以下、状態により70以下が発症を予防するためには必要で、直ちに生活習慣の改善とLDL-Cを下げるための薬が必要です。
また、糖尿病や慢性腎臓病・末梢動脈疾患などの方も、動脈硬化性疾患の発症リスクが高く、LDL-C値は120以下、喫煙ありの場合は100以下が必要です。生活習慣の改善と、必要であればLDL-Cを下げるための薬が必要です。
その他の人では、脂質検査結果を使って、動脈硬化性疾患(心筋梗塞やアテローム血栓性脳梗塞)の発症リスクを評価することができます。そして、発症リスクに応じた脂質検査値の目標値が明示されます。適切な生活習慣の是正と薬物療法で目標値を達成することで、動脈硬化性疾患の発症を予防することができます。
発症リスクの評価には「久山町スコア」が使われます。福岡県久山町では、1988年から40歳以上の町民2454人を約24年間追跡調査し、動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞の発症率を調査しています。
このデータベースを使って、どのような人が10年間に動脈硬化性疾患をどれぐらい起こしたのかがわかっており、10%以上の人:高リスク、2~10%の人:中リスク、1~2%の人:低リスクと評価されます。それぞれのリスクに対応してLDL-C等の目標値が示されます。
スコアは①性別②収縮期血圧③糖代謝異常(糖尿病は含まない)④LDLコレステロール⑤HDLコレステロール⑥喫煙―の6項目で算出され、年齢別に評価します。
脂質検査の異常だけでは具合が悪いなどの症状はありませんが、LDL-C値が120mg以上・中性脂肪値(空腹時)が150mg以上の時は、かりつけ医に検査結果をみてもらい、リスク評価と生活指導、必要であれば薬の処方をしてもらってください。
ただし、久山町研究は40歳以上の住民が対象のため、40歳未満の方の評価はできません。また、80歳以上の方は状態に応じて個別な対応が必要なため、リスク評価はしません。
また、LDL-C値が180mg以上のときは、家族性高コレステロール血症の可能性があり、冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)発症のリスクが高いので、内科や循環器内科を受診されることをおすすめします。