奈良県医師会 瀬戸靖史
(せと整形外科たわらもと)
私たち日本人の平均寿命は伸び続け、女性は90歳にも届きそうな勢いです。一方で、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」、いわゆる「健康寿命」は、平均寿命よりも約10歳下回っています。
健康寿命を伸ばすために運動習慣を持つことは、非常に有意義で、子供の頃から運動習慣を持つことが勧められています。生活習慣病の予防、ロコモティブシンドローム(通称ロコモ)の予防に効果的です。
しかし、一方で、過度な運動による障害にも気を付ける必要があります。
“ 疲労骨折 ” という言葉を聞かれたことはありますでしょうか? 普通の骨折は何らかの強い外力を受けることによって急激になりますが、疲労骨折は、繰り返し受ける過度な負荷によって徐々になります。
成長期、特に15~16歳で、下肢(かし)に多くみられます。走ったり、ジャンプをする競技をしている子供に多くみられます。初めのうちは鈍い痛みで練習もできますが、無理に運動を続けていると、徐々に痛みが強くなっていきます。普通の骨折のような内出血はありません。
まずはレントゲン検査を行いますが、レントゲン検査では診断がつかないことも多く、MRI検査やCT検査をして初めて診断がついたり、数週間後に再度レントゲンを撮って診断がつくことも多いです。
治療は患部の安静が基本です。通常はギプス等の固定は必要なく、運動を休止することによって改善しますが、数ヶ月を要することが多いです。その間に痛みが強い場合は、松葉杖を使って負担を減らしたり、足部の疲労骨折の場合は、足底板という靴の底敷を作成して、足のアーチを支えたりすることもあります。部位によっては、安静だけでは骨癒合(こつゆごう)が得られにくく、手術を要することもあります。
予防は、運動量が過度になっていないかを見直すことが第一ですが、十分な休息、睡眠がとれているか、しっかりと栄養がとれているか(朝食を抜いていないか)も見直してください。筋肉や骨が運動をして強くなるのは、運動で生じた微細な組織の損傷を体が修復してはじめて成されるのです。栄養や睡眠が十分にとれていなければ、傷付くだけで修復されません。また、周りの筋肉、関節が硬い場合は、ストレッチも十分行う必要があります。
痛みは体の悲鳴です。痛みを感じたら運動を休止、もしくは痛みが出ない程度に運動量を減らすことが大切です。その間にストレッチをしっかり行っていけば、再発予防にもなります。
疲労骨折に至る前であれば数週間の運動休止で済むところを、無理をして骨折に至ると数ヶ月間休まなければならなくなります。また、腰椎(ようつい)の疲労骨折(腰椎分離症)のように、治療開始が遅れて治りきらず、生涯にわたりリスクを残してしまう場合もあります。
健康寿命を見据えて、上手に運動をする習慣を子供の頃から付けていただきたいと、切に願います。