完治が難しい膵臓がん
早期発見を目指して
奈良県医師会 久保良一
膵(すい)臓は、胃の後ろ側の深いところにあり、幅3~4cm、長さ15cmぐらいの細長い形をした臓器で、2つの働きをしています。
食べ物の消化を助ける消化液である膵液を作り分泌し、膵管を通じて十二指腸に排出する「外分泌機能」と、血糖値を調節するインスリンやグルカゴンなどのホルモンを直接血液中に分泌する「内分泌機能」を有しています。
膵臓にできる膵臓がんは、主に膵管から発生し、ほとんどが腺(せん)がんといわれる組織のがんですが、大きさが小さいうちには症状が現れにくく、また小さくても膵臓は消化器の内臓や、周囲が血管やリンパ節に囲まれているため、転移しやすく、進行した状態で見つかることが多いことから、生命予後の悪い怖いがんとして知られています。
膵臓がんは近年増加傾向にあり、年間約45000人の方が膵臓がんと診断されていて、これは約3000人に1人が膵臓がんになるという頻度で、がん死亡数の順位では肺がん、大腸がん、胃がんについで第4位となっています。
膵臓がんの進行の程度は、医学的にステージ(病期)として0からⅣに分類されています。「早期ステージ0」は大きさが1cm以下で、がんが膵管上皮内でとどまっている状態。「ステージⅠ」はがんが膵臓内にとどまり、かつリンパ節への転移がない状態で、がんの大きさ2cmを境にして、ⅠAとⅠBに分類され、ステージ0、Ⅰは手術切除可能と言われています。
また、ステージⅠの5年生存率は約40~60%程度ですが、早期のステージ0で見つかれば、約80%に上昇します。しかし残念なことに約半数の方が、リンパ節や離れた肝臓、腹膜、肺など他臓器に転移した状態である「ステージⅣ」で発見されるために、その5年生存率は1%台と極めて低くなるため、がんの早期発見が大変重要です。
膵臓がんは、お腹の後ろの診察されにくい場所にあり、また初期では自覚症状がほとんどないため、早期発見が非常に難しい病気です。進行すると、食欲不振、お腹が張る感じ、腹痛や背中・腰の痛み、黄疸(おうだん)、体重減少、便通異常などが起こり、また糖尿病の診断時や糖尿病治療中に血糖値が急に悪化して診断されることもあります。
膵臓がんの診断、病期の決定をするには、さまざまな検査を行います。膵酵素、腫瘍(しゅよう)マーカー(主にCEAとCA19-9)を含む血液検査・腹部超音波検査、それと患者さんの年齢や全身状態に応じて、造影CT・MRI、超音波内視鏡、PET、細胞診などの検査を行い、また必要に応じて内視鏡逆行性膵管造影検査も行われます。
無症状の方には、スクリーニング検査として体への負担の少ない腹部超音波検査を行い、膵管の拡張やのう胞、腫瘤(しゅりゅう)の有無を観察するのが有用です。
治療は、がんの病期を基本とし、本人の希望、生活環境、年齢、体力などを総合的に判断し決定します。手術が第一選択ですが、がんの広がりをステージ分類で診断し、手術可能かどうかを検討します。手術可能な場合は、手術のみか、多くは手術と薬物療法を組み合わせた併用治療を行います。
病期が進行し手術が不可能な場合には、薬物治療や放射線治療を行います。また、がんそのものによる症状や痛み、薬物治療に伴う副作用や精神的な不安感、つらさなどに対応した医療・緩和ケア支援も重要です。
膵臓がんになりやすい危険因子として、50歳以上・肥満・喫煙・大量の飲酒・糖尿病・膵臓がんの家族歴・慢性膵炎・膵のう胞などがあり、注意が必要です。
危険因子を持つ方も含め、膵臓がんの早期発見のためには、定期的に検診、血液検査、腹部エコー検査などを受けられ、膵臓がんが疑われたら、躊躇なく中核病院で専門的な診察、精密検査を受けることが肝要です。