心不全パンデミック

―心臓の健康を守るために今できること

奈良県医師会 山本忠彦

(山本医院・葛城市)

最近、「心不全パンデミック」という言葉が話題になっています。「パンデミック」とは感染症の世界的な大流行を意味しますが、それほど多くの人が心不全を発症し、社会全体の大きな問題になっています。日本でも高齢化が進むなか、心不全の患者さんは急増しており、私たち一人ひとりが正しく理解し、予防に努めることが求められています。

「心不全」とは、心臓のポンプ機能が低下し、全身に必要な血液をうまく送り出せなくなる状態です。その結果、体に酸素や栄養が行き渡らず、息切れ、むくみ、疲れやすさなどの症状が現れます。

心不全の恐ろしいところは、初期にはほとんど症状がないことです。気づかないうちに進行し、症状が出たときにはすでに心臓の機能がかなり弱っているということも珍しくありません。そして、一度症状が現れると元の健康な状態に戻るのは難しく、徐々に悪化していく傾向にあります。

心不全の原因には、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、喫煙、運動不足など、生活習慣に関わるものが多くあります。また、心筋梗塞や弁膜症などの心臓疾患だけでなく、腎臓疾患、呼吸器疾患などが挙げられます。これらは心臓に負担をかけ、徐々に心機能を低下させていきます。だからこそ、悪化予防のためには日々の生活を見直すことがとても重要です。

バランスの取れた食事、禁煙、適正体重の維持に加えて、運動療法が心機能改善に効果的です。特に心不全リスクが高い人や、すでに軽度の心不全と診断された人にとって、適度な運動は心機能改善や進行抑制につながることが分かっています。ウォーキングや軽いストレッチなど、無理のない範囲での定期的な運動は、心臓の機能を保ち、血圧や血糖のコントロールに役立ちます。ただし、すでに心臓に異常がある場合は、必ず医師の指導のもとで安全な運動計画を立てることが大切です。

高血圧や糖尿病、脂質異常症などの疾患がある場合は、薬によるコントロールが重要です。たとえば、血圧を適正に保つことは心臓の負担を軽減し、心不全の進行を防ぐうえで重要です。また、血糖やコレステロールを安定させることは、血管や心筋を守るために欠かせません。定期的な通院と医師の指示に基づいた薬物療法の継続は、心不全の予防と治療の要(かなめ)となります。

心不全は誰にでも起こりうる身近な病気です。しかし、生活習慣の見直しや運動の習慣化、薬物療法の継続などを通じて、発症や進行を防ぐことができます。症状が出てからではなく、まだ元気なうちに心臓を守る行動を始めることが重要です。健康で長く過ごすために、今日からできることを少しずつ始めてみましょう。