奈良県医師会 中谷敏也
(大和高田市立病院)
▶逆流性食道炎とは何か——その理解と予防のために
現代の日本において、「逆流性食道炎」という病名を耳にする機会が増えてきました。これは胃の内容物、特に胃酸が食道へ逆流することで、食道の粘膜が炎症を起こす疾患です。
以前は高齢者や肥満傾向のある人に多いとされていましたが、最近では若年層を含む幅広い世代に増加しており、生活習慣病の一つとして注目されています。
▶主な症状とその影響
逆流性食道炎の主な症状には、胸焼け、酸っぱい液が喉まで上がってくる「呑酸(どんさん)」、喉の違和感、咳、声のかすれなどがあります。これらの症状が慢性的に続くと、日常生活に大きな支障をきたします。
例えば、食後に胸焼けが発生すると食事が楽しめなくなることがあります。また、睡眠中に逆流が起きると、睡眠の質が低下することがあります。
▶原因とリスク要因
この病気の背景には、食生活の欧米化やストレスの増加、運動不足などが深く関係しています。脂(あぶら)っこい食事、過度のアルコール摂取、喫煙、過食、そして夜遅い時間の食事などが胃酸の逆流を引き起こしやすくします。また、加齢による胃の機能低下や、肥満による腹圧の上昇もリスク因子です。
▶日常生活でできる予防と対策
逆流性食道炎は、生活習慣の見直しによって予防・改善が可能です。以下のポイントが有効とされています。
- 腹八分目を心がける:食べ過ぎは胃の圧を高め、逆流の原因になります。特に夜遅くの食事は避け、就寝の2〜3時間前までに済ませるようにしましょう。
- 脂肪分や刺激物を控える:揚げ物、チョコレート、コーヒー、炭酸飲料、香辛料などは胃酸分泌を促進するため、摂取を控えることが望ましいです。
- 禁煙・節酒:タバコやアルコールは食道括約筋(かつやくきん)の働きを弱め、逆流を起こしやすくします。
- 適度な運動と体重管理:肥満は腹圧を上昇させるため、ウォーキングなど軽い運動を習慣づけ、適正体重を維持することが重要です。
- 姿勢にも注意:食後すぐに横になるのは避け、背筋を伸ばして座ることが胃酸の逆流防止につながります。
▶医療機関の受診も忘れずに
症状が慢性化している場合や、市販薬で改善が見られない場合は、早めに消化器科を受診しましょう。内視鏡検査などによって正確な診断が可能であり、必要に応じて胃酸分泌抑制薬などの治療が行われます。放置しておくと、食道の粘膜がただれて「バレット食道」と呼ばれる、前がん状態になることもあります。
▶まとめ
逆流性食道炎は、現代人のライフスタイルに深く関係した疾患でありながら、日常のちょっとした心がけで大きく改善・予防することが可能です。
一人ひとりが自分の生活を見直し、健康的な習慣を取り入れることで、より快適な日常を送ることができるでしょう。

逆流性食道炎のイメージ

左が逆流性食道炎・右は正常な胃の状態



