肛門の痒み(肛門搔痒症)

奈良県医師会 波江野 善昭

肛門科を標榜していると、最近肛門の痒みを訴えて来院される患者さんが目立ちます。特にご高齢の方に多いように思います。

肛門周囲は知覚神経が非常に敏感な場所ですので、他の部位より痒く感じるのです。原因にはいわゆる「かぶれ」、カビ、蟯虫(ぎょうちゅう)、尖圭(せんけい)コンジローマ等のウイルス感染やがんなどがありますが、圧倒的に多いのは「かぶれ」です。

普段から下痢(げり)や軟便(なんべん)傾向で肛門周囲の皮膚が常に湿っている場合は別として、最近特に多いのは、昨今の過度の清潔志向による「洗いすぎや拭きすぎ」です。ウォシュレット、ウェットティッシュ、肛門専用スプレーやナプキンなどの普及により肛門周囲の皮膚を必要以上に洗浄し、強く拭くことにより清潔にするつもりが反対に不潔にしている事があるということに注意が必要です。

本来、皮膚表面には無数の細菌やカビが付着していますが、それらから体を守ってくれているのは皮膚の「表皮(ひょうひ)」というバリアです。軽いプラスチックレンズのメガネを使用されている方はお分かりと思いますが、トイレットペーパーでレンズをごしごし拭くとレンズに無数の傷がついてしまいます。ウォシュレットなどでふやけさせた皮膚を過度に擦れば、皮膚のバリアが傷つき、感染を起こしてしまいます。また、入浴の際に肛門や陰部を石鹸を使用して
何回も過度に洗う事は皮膚の保湿を低下させ、バリアの機能を低下させます。

陰部や肛門の症状は恥ずかしいということから薬局などで軟膏などを購入されて、治療する方が多いと思いますが、ぜひ専門医への早めの受診をお勧めします。いわゆる「無菌グッズや無菌状態」は本来の生物としての理想ではなく、上手く「ばい菌やカビと共存」する事が重要です。