奈良県医師会 夏目 修
私達の多くは、歳をとると夜中にオシッコをしたくなって何度も目が覚めてしまい、トイレに通う回数が多くなることを当然のように思っていませんか? このように加齢に伴い夜中のトイレ回数が増えてしまうことを夜間頻尿(やかんひんにょう)と言い、他国での疫学的調査でも同様な傾向のようです。
歳をとれば当然と思われる夜間頻尿の出現・増加が生じる原因は様々で、いくつもの要因が重なっていることが考えられます。歳をとると腎臓の働きが衰えてくる上、高血圧、糖尿病などの生活習慣病、前立腺肥大(ぜんりつせんひだい)や膀胱(ぼうこう)自体の問題以外に、睡眠が浅くなり中途で覚醒(かくせい)したり、睡眠時無呼吸が生じて朝起きても熟睡感がないといった睡眠の質の問題、さらには習慣的に水分摂取量が多過ぎるなど、身近な難問が関わっている可能性が少なくありません。
とくに「脳梗塞(のうこうそく)の予防のため血液をサラサラに」といって、夜間帯の水分摂取にひたすら励んでおられる方もいらっしゃいますが、日本の国立専門機関の調査でも、夜間の水分摂取を励むことによる脳梗塞予防効果の医学的根拠はないことが報告されています。夜間にあまり多く水分を摂りすぎて、何度もトイレに目が覚めてしまうようでは、体や脳の回復を邪魔し、心臓や血圧にも悪い影響が出ることが予想されます。
これまでの研究でも、夜中にトイレに行く回数が増えるほど、転倒転落の危険性や心臓血管系の合併症が増え、生活の質の低下をまねいて医療費の出費増大にもつながるなど、健康的な老後への影響が心配されます。『過ぎたるは、なお及ばざるがごとし』の格言は、夜間の水分摂取にも当てはまるのではないでしょうか?
夜間頻尿の対策の面からは、普段の生活状況なら1日の排尿回数は7~8回程度までで、体重50~60㎏前後の方であれば、食事以外に1日に摂る水分量は1000m1~1500ml位あれば問題ありません。
夜中に何度もトイレに行くようなら、一度、1日にトイレに通う時刻・回数と、その都度のオシッコの量をメモしてみられてはいかがでしょうか?
夜間頻尿が続くようなら、一度、ご遠慮なく専門医にご相談してみてください。