心房細動治療のトピックス

 心房細動(しんぼうさいどう)は、心臓の一部である心房が高頻度に拍動(はくどう)する不整脈で、高齢者によくみられます。我が国では、高齢化に伴い心房細動の患者数は増加の一途をたどり、約100万人になるだろうと推定されています。

 それでは、心房細動はいったい何が悪いのでしょうか?

 心臓機能の低下が問題となることもありますが、一番大きな問題は脳梗塞(のうこうそく)を発症しやすくなることです。心房細動になると、左心房内に血の塊(かたまり)である「血栓(けっせん)」ができやすくなります。この血栓が脳の血管に移動して詰まると脳梗塞(脳塞栓:のうそくせん)になります。

 心房細動がある人は、ない人と比べて脳梗塞発症率が約5倍です。巨人軍の長嶋茂雄元監督が脳梗塞になられた原因は心房細動であり、その予防治療をしていなかったからだと言われています。

 この左房内血栓の予防には、経口抗凝固薬(けいこうこうぎょうこやく)であるワルファリンが唯一有効とされていました。しかしながら、この薬は納豆・青野菜摂取の制限、併用薬の制限など制約の多い薬剤で、かつ効き目も個人差が大きく、使用量を調節する必要がありました。正直使いづらい薬のひとつです。使い勝手のいい新しい経口抗凝固薬の出現が待ち望まれていました。

 最近、ダビガトラン(商品名:プラザキサ)、リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)などの新しい抗凝固薬が開発され、ワルファリンに替わって使用されてきています。脳梗塞予防効果はワルファリンと同等かそれ以上の効果があり、副作用についてもワルファリンよりも少ないとされています。今後、ますます使用される症例の増加が見込まれています。

 心房細動治療での大きな進歩として、経皮的心筋焼灼術(けいひてきしんきんしょうしゃくじゅつ:カテーテルアブレーション)という治療法が開発されたことです。この治療法は、カテーテルによって心房細動の原因となっている箇所(心房や肺静脈の一部)を焼灼する(焼く)ことによって心房細動を根治します。数日の入院で行えるため、数年前からこの治療法を行う心房細動患者さんが増加してきました。

 今後、さらなる医療機器の進歩や治療法の開発によって、治療成績の向上が期待されています。