難聴に注意! ―おたふく風邪―

奈良県医師会 清益 功浩

 おたふく風邪は、別名、流行性耳下腺炎(りゅうこうせいじかせんえん)、ムンプスと言われています。ムンプスウイルスにより起こる病気で、唾(つば)などで感染する飛沫(ひまつ)感染です。感染してから発症まで2~3週間です。唾液(だえき)を作る組織、耳下腺(じかせん)、顎下腺(がくかせん)などが耳の下から顎(あご)にかけて腫(は)れて、「おたふく」にようになります。発熱、咳や鼻水などの風邪のような症状もあります。

 おたふく風邪には、様々な合併症があります。髄膜炎(ずいまくえん)や脳炎など、脳そのもの、脳の周りに炎症を起こして、頭痛、嘔吐(おうと)、意識障害、けいれんを起こします。髄膜炎は、約10%に起こると言われ、3回以上の嘔吐、激しい頭痛、高熱があるときには医療機関を受診した方がいいでしょう。

 しかし、おたふく風邪には特効薬がありません。つまり、髄膜炎になっても治療方法がないわけで、脳炎になると、てんかんや麻痺(まひ)などの後遺症が残ってしまうこともあります。

 おたふく風邪による難聴は、患者さん約1万5000人に1人発症すると言われていたのですが、最近は、約1000人に1人発症する言われ、治療方法はなく、自然に治る可能性がかなり少ないです。思春期頃におたふく風邪になると、睾丸炎(こうがんえん)や卵巣炎(らんそうえん)になってしまいます。

 おたふく風邪の合併症には重症になるものがあり、治療方法がないために、予防が大切です。おたふく風邪の予防にはワクチンがあります。生ワクチンと言って、ムンプスウイルスの毒性を減らして使っています。そのため、自然に罹(かか)るよりは頻度が少なく、症状も軽いのですが、ワクチンで髄膜炎を起こすこともあります。

 欧米ではすでに、麻疹、風疹、水疱瘡(みずぼうそう)、おたふく風邪の4種類を混合したワクチンを2回接種することで、おたふく風邪の発症がほとんどみられていません。おたふく風邪のワクチンは1回では免疫力がつかない人が5~10%ありますが、2回することでかなりの予防効果が期待されます。

 難聴になってからでは遅いです。おたふく風邪のワクチンは現在、任意接種と言って、自費になっていますが、難聴を防ぐ意味でも必要です。