前立腺肥大症と前立腺癌

奈良県医師会 吉江 貫

 前立腺は男性だけにある臓器で、大きさは栗の実大で膀胱の下にあり、尿道を取り囲んでいます。みかんのような層構造をしていて、被膜付近の外腺(みかんの皮にあたる部分)と、尿道のまわりの内腺(みかんの実にあたる部分)とに分けられます。最近では外腺を辺縁領域、内腺を中心領域と移行領域に分けて呼ぶ事があります。

 前立腺は、前立腺特異抗原(PSA)を産生し、前立腺液として分泌します。それは精液の一部となり精子を保護し、その運動を助けています。男性ホルモンが前立腺の増殖をすすめ、その生理作用を維持しています。また、交感神経の一部は、前立腺内の緊張を調節しています。
 前立腺肥大は主に内腺より発生し、尿道を圧迫しやすく、排尿障害や頻尿などの症状を引きおこしやすくなります。

 治療としては、まず症状にあわせて前立腺の緊張をやわらげる「α1遮断薬」や、前立腺内の男性ホルモンを抑制して前立腺体積を小さくする「5α還元酵素阻害薬」などの内服薬が用いられます。内服薬で治療効果がなければ、手術療法が選択されます。尿道より挿入した内視鏡下に高周波電流を通じた切除ループで切除する「経尿道的前立腺切除術」が一般的です。

 前立腺癌は主に外腺より発生するため、初期の場合はほとんど自覚症状がありません。このため、前立腺癌の腫瘍マーカーであるPSA測定(血液検査)を中心とした前立腺癌検診がひろく行われています。PSA値は4ng/ml未満が正常値となっていますが、4~10ng/mlの場合は30~40%、10ng/ml以上の場合は50~80%に前立腺癌が存在するといわれています。
 PSA値や超音波検査などによって前立腺癌が疑われる場合は、確定診断のために針生検が行われます。癌が認められれば、CT、MRI、骨シンチグラフィーにより癌の広がり、リンパ節転移、骨転移の有無を確認します。

 治療としては、比較的若い患者で癌が前立腺内にとどまっている場合は、前立腺全摘除術や放射腺治療が行われ、そうでない場合は一般的に抗男性ホルモンなどの内分泌治療が行われます。