高齢者の服薬で注意すべきこと

奈良県医師会 井村 龍麿

 高齢者の服薬においては、一般的に副作用の危険が高くなるため、服薬量を減量します。なぜなら、高齢者の場合は、肝臓や腎臓の機能が低下し、薬物の吸収や代謝(たいしゃ)、排泄(はいせつ)が悪くなるからです。

 また、体表面積に変化がなくても体組成(たいそせい)が変化するため、年齢を重ねるにつれて体内の水分の量が減少し、代わりに脂肪組織の量が増えてきます。結果として、服用した薬が高濃度になりやすく、長く体内に蓄積されることになります。したがって、体重は同じであっても成人と比べ高齢者は服薬量を減量する必要があります。

 服薬量が多いと、降圧薬では急激に血圧が下がり過ぎたり、血糖降下薬では血糖が下がり過ぎることがあり、注意が必要です。睡眠薬では、効き過ぎて長時間起きられなくなることや、一時的なふらつき・筋力低下により夜間に転倒する危険が増えるため、特に注意が必要です。

 また、高齢者では複数の慢性疾患を患っていることが多く、おのずと服薬数が増える傾向があります。内科と整形外科等のように診療科ごとに複数の病院や診療所にかかっている方も多くおられ、相互の診療科で服薬の情報が十分に確認されず、同系統の薬が重なった処方となったり、飲み合わせが良くない薬の処方となることがあり、注意が必要です。病気によっては服薬が好ましくない薬もありますので、診察の際にお薬手帳を見てもらうことや、患っている病名をすべて伝えることが大切になります。

 また、かかりつけ薬局を決めて服薬管理をしてもらうことも安全に服薬できる方法の一つです。高齢者においては、小児のようなきちんとした目安量はありません。したがって医師は、高齢者の方の年齢や体重、肝臓・腎臓等の機能、病気の症状、普段服用している薬の内容を考慮し、服薬量を加減しています。決められた用法、用量を守って服用しましょう。

 もし副作用が起こったという理由で減量を希望される際には、服薬量が少な過ぎることで体に及ぼす問題がないかにも気を付けて、必ず処方医師に相談してください。