奈良県医師会 波江野 善昭
寒くなると痔が悪化して来院される患者さんが目立ちます。そこで、今日は痔の治療法のひとつの「輪ゴム結紮法」についてお話しします。
痔には大きく分けて直腸から皮膚までに及ぶ外痔核と、直腸粘膜面までの内痔核があります。外痔核は普通痛みが強く、内痔核は排便時に飛び出し出血する事が多いです。
内痔核に対する治療法には、座薬や内服薬による内科的治療と外科的治療とがあり、外科的治療には痔核を取り除く方法と痔核を縮小する方法があります。比較的入院を必要としない縮小手術には、レーザー治療や薬物を痔核に注入して固める方法、輪ゴム結紮法などがあります。それぞれに長所短所がありますが、痔核があまり大きくない場合は、輪ゴム結紮法は非常に良い治療法です。
具体的な方法は、静脈がこぶのようになっている痔核の根本付近に特殊な輪ゴムをかけて、痔核を壊死(えし)させて脱落させます。壊死脱落した粘膜組織は、輪ゴムと一緒に1週間から10日前後で便とともに排出されます。この方法の長所は、肛門付近の違和感くらいで術後の痛みがほとんどなく、手術時間も10分程度、麻酔(ますい)もほとんど使用しないということです。短所は、大きな内痔核には輪ゴムがかからないことで、早期の内痔核のみが対象となることと、縮小手術がゆえの再発の可能性です。
しかし最近では、肛門粘膜全周が飛び出した脱肛(だっこう)には輪ゴムを多数使用したり、出血がまったく止まらない場合にも劇的に止血出来た患者さんを私も少なからず経験しています。
また、術後にかなり痛むために従来は適応外とされていた外痔核に対しても、麻酔や輪ゴムをかける部位などを工夫することにより、比較的良好な経過の患者さんもおられます。
もちろん早期の肛門科受診および治療が最も重要ですが、輪ゴム結紮法の治療適応拡大は今後充分期待できるものと考えられます。