奈良県医師会 石丸 裕康
病気の治療に、薬は欠かせませんが、適切に使われないと副作用に悩まされることもあります。外来診療では、時に十何種類もの薬を服用している方に出会います。「A病院から5種類、B医院から4種類、C診療所から8種類、全部で17種類服用しています」といった患者さんは決して珍しくありません。
特に高齢者では、高血圧、骨粗しょう症、高脂血症など複数の病気があるのが普通で、それぞれに対し深く考えること無く処方されますと、あっという間に薬の服用数が増えます。もちろんそれぞれの薬には、有効な作用があり、個々にみると誤りとはいえないのですが、たくさんの薬をのむことは「ポリファーマシー(多剤薬物投与)」と呼ばれ、そのマイナス面が注目されるようになってきています。
例えば、薬の服用数に比例して、副作用の頻度が増加します。服用数が増えるにつれて、間違いなくのむことが難しくなること、のみあわせの問題、処方の誤りが増える、などが原因と考えられています。また高齢者では薬の服用数が多いことで、転倒が増えることが示されています。ですから、薬の数は少ないに越したことがないのです。
ではどのようにすれば薬の数を必要最小限にできるでしょうか?
おすすめしたいのは、受診時に必ずお薬手帳を持参し、今のんでいる薬を確認してもらうことです。複数の医療機関にかかり、それぞれから処方を受けることが多剤投与のひとつの原因ですが、薬を確認してもらうことで、薬の重複、危険な組み合わせを避ける事ができます。
もうひとつは、医師にかかる際に、薬をできるだけ少なくしたいと意思表示をすることです。患者さんが薬を増やすことに慎重であれば、医師もその薬が本当に必要なものか、吟味するようになるでしょう。
できれば、かかりつけ医を持ち、薬の投与をできるだけそこに一本化することが良いと思います。それが難しければ、かかりつけ薬局を持つなどの方法で、薬の情報を集約することが望まれます。
薬はうまく使えば有効なものですが、過ぎたるは及ばざるが如しです。本当に必要な薬を、きちんと服用することが大切で、そのために患者さんと医師でともに考える機会を持ちたいものです。