奈良県医師会 村井 孝行
平成21年の春に、“はしか”が首都圏の大学生を中心として大流行したことは記憶に新しいことでしょう。この年の1年間になんと732人もの人が“はしか”に罹(か)ってしまいました。“はしか”は、医学的には“麻(ま)しん”と言われています。
“麻しん”の感染力(人に病気をうつす力)は非常に強く、1人の“麻しん”患者が周りにいると、“麻しん”に抵抗力を持たない人がいれば、12〜18人もの人が罹ってしまうと言われています。他の病気の感染力が、季節性インフルエンザで2〜3人、おたふく風邪で4〜7人、風しんでは5〜7人と言われていますので、“麻しん”の感染力がどれほど強いものかがお解りになられるでしょう。
また、“麻しん”は感染力が非常に強いだけでなく、“麻しん”に罹って発熱する前日には、もうすでに周りの人への感染力があると言われていますので、自分で知らないうちに罹ってしまっていることもあり、さらに困ったことです。
今年に入り“麻しん”が再流行しています。昨年1年間の“麻しん”総患者数は232人でしたが、今年4月9日時点での患者数は、すでに253人とその人数を超えており、大流行した平成21年の同時期の患者数をも上回る勢いです。特に、首都圏(東京都54人、神奈川県19人、埼玉県21人、千葉県23人;4月16日現在)で流行しています。また、現在フィリピンをはじめとする東南アジアやオセアニア地域では、“麻しん”が大流行しています。首都圏での多数の患者はフィリピン等への渡航歴があり、詳しい遺伝子検査で海外流行地での遺伝子型と一致しています。奈良県でも4月初旬に、フィリピン(セブ島)からの帰国者1人が“麻しん”に罹っており、遺伝子検査でやはり海外流行地での遺伝子型でした。
“麻しん”は、“麻しん”ウイルスによる病気で、このウイルスに直接効く治療薬はないので、罹ってしまってからでは手遅れです。唯一の予防法は、あらかじめ予防接種を受け抵抗力をつけることです。特に、これから“麻しん”の流行地へ旅行計画を立てている方のうち、今まで“麻しん”に罹ったことがなく予防接種も受けたことがない方は、予防接種を受けておくことをお勧めいたします。