骨転移の痛みを和らげる内照射療法

奈良県医師会 御前 隆

医学の進歩により、がんは必ずしも治らない病気ではなくなってきました。しかし、進行して骨に転移した場合には、痛みをはじめとするつらい症状が起こります。最近、副作用の少ない合成麻薬をはじめとして、完治はできなくても転移の症状を和らげるための治療法が色々と発達しています。

 ここでご紹介するのは、骨に取り込まれやすい放射性医薬品を使って、体の中から転移組織を攻撃する方法です。塩化ストロンチウム89という注射薬です。ストロンチウムは金属元素で、体内ではカルシウムと似た分布をしますので、静脈注射すると骨格、特に転移によって刺激を受けている場所の骨に多く集まります。出す放射線はベータ線といって遠くには飛ばない種類ですので、周囲の方の被ばくはごく少しです。

 その代わり、ストロンチウム89だけでは分布を確認する写真が撮れませんので、治療前に別の放射性医薬品を使って骨シンチグラフィという検査を行い、痛みのある転移の場所に集まることを確認する必要があります。がんの種類によっては、骨を溶かすばかりでカルシウムやストロンチウムの取り込みが増えないこともあるからです。

 副作用は、貧血(赤血球減少)、白血球減少、血小板減少が主なものです。骨にストロンチウム89が集まると、これら血液細胞を作っている骨髄(こつずい)にも少しは放射線が当たってしまうためです。ですから、骨髄に負担の強い抗がん剤と同時ないし前後では使えません。逆に言うと、乳がんや前立腺がんで骨転移による痛みがあり、現在ホルモン系統のお薬のみ投与を受けておられる方などは、この治療法を考える意義があります。

 他の欠点として、放射性同位元素使用設備のある病院でないと投与できないこと、転移の場所への集まり方の強弱により効果に個人差があることが挙げられます。

 また、脊椎(せきつい)への転移で脊髄麻痺(せきずいまひ)が起こりそうな方には他の治療を優先するなどの注意点があり、お値段も安くありませんので、主治医の先生とよくご相談の上、この治療を受けるかどうか決めてください。