認知症の周辺症状とその人の気持ち

奈良県医師会 原 健二

 認知症では、大脳の神経が障害される結果、記憶や思考、判断、計画、実行といった機能が低下してきます(これらを中核症状と呼びます)。

 たとえば、財布や通帳などの大切な物を自分でどこかにしまい込んで忘れてしまったとしても、ふつうは盗られたとは考えません。しかし、考える力や判断力が悪くなっているので、だれかに盗られたと思うのです(物盗られ妄想)。また夜中に家を出て徘徊するお年寄りは「会社に行くのだ」と言い、夕方になって荷物をまとめて出て行こうとするおばあさんは「家で両親が心配しているから」と言います。みんな現在の記憶は蓄積されず昔の時間に生きていて、周囲が暗くなってくると状況判断が鈍くなるからです。

 家族やスタッフが入浴の世話をしようとすると、興奮したり暴力を振るう人もあります。本人はムリに服を脱がされて何をされるのだろうと不安になっているのです。日々の生活習慣も分かっていないし、少しは我慢するといったこともできないのです。

 このような症状は周辺症状と呼ばれますが、中核症状がもとになって生じていることはまちがいありません。そして、家族や施設のスタッフにとっては、この周辺症状への対応がより負担となります。周辺症状に対してはいろいろな薬が使用されます。それらには鎮静作用やふらつき、動作が鈍くなるといった副作用がみられることもあり注意が必要です。

 周辺症状の起こる機序については中核症状だけが原因ではなく、その人の精神心理状態や生活環境も大きく関与しています。

 認知症の人は感情のコントロールが下手で、不安や焦燥も強いのです。また、環境の変化にも弱く対人関係もうまくこなせません。

 周辺症状に対しては、それぞれの元々の性格、これまでの生活史、家族関係なども考えて対応することが必要です。その人が今どういう気持ちでいるのかをちょっと考えて対応すると、薬を使わずに介護しやすくなることも多いのです。薬の前にもう一度、認知症の人の気持ちを理解してあげてください。