〝ヒトの命を奪う最も危険な生き物〟は?

奈良県医師会 村井 孝行

 ところで皆様は「ヒトの命を奪う最も危険な生き物」をご存じでしょうか。おそらく、オオカミ、ライオンやサメといったどう猛な生き物を思い浮かべるかと思いますが、それらの生き物に襲われて命を落とすヒトは年間10~100人程度と言われています。

 想像もつかないかもしれませんが、実は〝蚊〟が第1位なのです。蚊に刺されて罹(かか)る疾患によって、世界中で年間なんと200万人以上ものヒトが亡くなっているのが現状です。衛生状態の良い日本で暮らす私達は実感がわかないかもしれませんが、世界中で蚊によってどれほど多くのヒトの尊い命が奪われ、また、蚊がこれほどまで最も危険かつ凶暴(きょうぼう)な生き物であるかという認識を持たなければなりません。

 「蚊を介してヒトからヒトに感染する疾患」を〝蚊媒介感染症〟といいます。日本では、感染症法という法律により、これらの疾患を診断した医師全員が、直ちにその発生を届け出ることが義務付けられています。このおかげで、早期にその発生を察知することができ、また、その感染が広がることも防げるわけです。

 では、代表的な疾患をあげると〝マラリア〟〝日本脳炎〟〝ウエストナイル熱〟〝チクングニア熱〟そして日本でも、昨年ほぼ70年ぶりに国内で罹ったことがわかった〝デング熱〟などがあります。また、地球の温暖化はもちろん、世界的な自然災害の多発による衛生状態の悪化で、蚊は生息できる地域を世界的に着々と広げています。例えば日本の近隣(きんりん)国をみると、台湾ではデング熱が既に土着してしまい、韓国においてもマラリアが再出現しています。日本でも数年先には、同じ様な事態に陥(おちい)らないとも限らないわけです。

 旅行や出張などで海外の流行地へ出かけた時は、できるだけ素肌を出さないように長袖の服と長ズボンを着用したり虫除け剤を使用するなど、まず蚊に刺されないように心掛けることが肝心です。また、ご自身が出かけられる外国では、蚊によるどんな感染症の流行地なのか事前に調べておくことも必要です。万が一、海外から帰国後に発熱し医療機関を受診される際には、必ず海外(国名)へ渡航したことを医師に申し出ましょう。