奈良県医師会 鹿子木 英毅
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は胃の粘膜に存在する細菌で、様々な病気の発生に関係することが知られています。1982年にこの菌を発見した2人の医師には後にノーベル生理学・医学賞が授与されました。
最初にピロリ菌との関連が証明された病気は胃潰瘍(いかいよう)、十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)で、その後、胃の粘膜にできるリンパ腫や血小板減少をきたす疾患もピロリ菌が関係していることが明らかとなりました。さらにピロリ菌が胃の粘膜に感染することで起きる慢性胃炎は、胃がんの発生母地となることが明らかにされ、ピロリ菌はWHO(世界保健機構)から〝確実な発がん因子〟と認定されました。ピロリ菌を治療することで胃癌(いがん)の発生が抑えられるのではないかと期待されています。
ピロリ菌に感染している人の数は日本全体で3500万人と推計されていますが、感染率は年齢によって大きな差があり、60歳以上では70%前後と高い割合が報告されている一方で、10代以下では10%以下と低率です。幼児期に口から菌が入って感染すると考えられていますが、実際の経路は明らかになっていません。ピロリ菌に感染している大人から口移しで食事を与えたりすることが原因の一つであると考えられています。大人になってから新たに感染する心配は少ないようです。
ピロリ菌に感染しているかどうかを知るには、内視鏡(ないしきょう)を用いた検査、血液や便、呼気を調べる方法があり、それぞれの方法に長所と短所があります。
ピロリ菌を退治するためには3種類の薬を1週間服用する除菌治療が行われます。1回目の治療で除菌が成功する割合は8割程度ですが、うまくいかなかった場合も、別の薬の組み合わせで2回目の治療をすることで9割以上の方で除菌できるといわれています。
ピロリ菌が原因の胃炎があっても、ほとんどの人は無症状です。以前に胃、十二指腸潰瘍や胃炎と診断されたことのある人は、ピロリ菌の検査を受けることをお勧めします。ただし健康保険を使ってピロリ菌の検査、治療を受けるためにはいくつかの条件を満たす必要があります。また除菌治療に伴い、下痢(げり)や味覚異常などの副作用がみられることもありますので、詳しくはかかりつけ医にご相談ください。