〝謎の食中毒〟その原因は…

奈良県医師会  村井 孝行

 2000年頃から西日本を中心に、ヒラメやマグロなどの刺身を食べた数時間後、一過性に嘔吐(おうと)・下痢(げり)などを起こす食中毒が年間60件ほど報告されていました。ところが、その原因となるウイルスや細菌などが、検出されることはありませんでした。そのため〝謎の食中毒〟とまで言われて来ました。そこで、全国的な調査が行われた結果、2010年になりやっとその原因が解明され〝クドア・セプテンプンクタータ〟であったことがわかりました。クドア・セプテンプンクタータは、元々ヒラメなどの魚類の筋肉に寄生する粘液胞子虫(ねんえきほうしちゅう)という寄生虫で、今までヒトに健康被害が与えることはありませんでした。ところが、変異を起こしてしまって〝毒性を持つ新種〟のものとなり、更にヒラメの養殖場を中心に広がってしまったのではないかと推測されています。

 どの程度の割合で発症するか詳しくは今のところよく解っていませんが、クドア・セプテンプンクタータが非常に多く体内に取り込まれた時だけ、発症するのではないかと考えられています。その症状は、食後4~8時間位経って、嘔気(おうき)・嘔吐、胃部の不快感、腹痛、下痢等を一過性に起こします。しかし、これらの症状は軽く数時間程度で治まってしまい、重症化することはありません。また、発症した本人から家族等へ感染が広がること(二次感染)もありません。

 今まで実施された調査では、ヒラメにクドア・セプテンプンクタータが寄生している割合は非常に低く、たとえ寄生していてもその数は非常に少ないことも解っています。また、クドア・セプテンプンクタータは、冷凍(マイナス16℃~マイナス20℃で4時間)や加熱(90℃で5分以上)すると、死滅してしまうことも確認されています。現在〝冷蔵下〟における死滅効果の条件や、養殖場における対応(厚労省と農林水産省との共同)などの研究にも取り組まれているところです。

 クドア・セプテンプンクタータが原因の食中毒は、今まで夏場に多く起こっていることから、これから食中毒が多くなる夏のシーズンになり、飲食店などで魚の刺身を食べた後、短時間のうちに嘔吐、腹痛、下痢などの症状が一過性に出た時は、このクドア食中毒かもしれません。