奈良県医師会 池島 英之
心不全は、虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)や不整脈(ふせいみゃく)、高血圧、心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)や心筋症(しんきんしょう)などの心臓疾患により心臓の機能が低下し、体に不調をきたした状態です。
心臓は、体の各臓器に酸素と栄養を含んだ血液をいきわたらせるためのポンプの役割をしています。心臓の機能がうまく働かないと、①全身に血液を行き渡らせることができなくなる、②心臓に血液が戻りにくくなるといった二つの弊害(へいがい)が出てきます。
①の症状としては、疲労感や身体のだるさ、動悸(どうき)や手足の冷感など全身の血流不足による症状が生じ、②の症状としては血液のうっ滞(たい)により身体・臓器のむくみが生じてきます。典型的には、心不全の初期には坂道や階段をのぼるときなど動いた時に息切れが出るというような症状が出現し、進行すると、寝るときに息苦しくなる、咳が出るといった症状が出てくるようになります。さらに重度になると、夜間に突然呼吸が苦しくなり、喘息様の呼吸困難が起こってくるようになります。
しかし、心不全症状は心臓疾患を持つすべての人に生じるわけではありません。人間の体は非常事態に備えてバランスを取るようにできており、交感神経を緊張させて脈拍を速くすることや、血液を心臓に多く貯められるように心臓自体が拡大することなどで、ある程度は全身をめぐる血液量を調整してくれます。その状態に、感染やストレス、不整脈、高血圧の悪化や新たな心疾患の合併などの増悪因子が加わり、この機構が破綻すると心不全症状が出てくるのです。
つまり、心不全の発症には基礎となる心臓疾患とその増悪因子があることが条件であり、日常生活に注意をすることで、増悪因子を減らし、心不全症状の発症を避けることができます。過労を避け、感染の予防のため手洗い・うがいをする、長時間の入浴や熱い湯に浸かることを避ける、重症度に合わせて運動や塩分・水分の摂取を制限することなどが重要となります。
心臓疾患を患われた方は、心不全の増悪を起こさないように、普段からきちんとかかりつけ医を持ち、継続して治療を受けることを心がけましょう。