かくれ虫垂炎(ちゅうすいえん)について ~経過を見ることの重要性~

奈良県医師会 勝山 慶之

 発症直後、診断がつきにくく、時間経過とともに、さまざまな症状・所見が出現して確定診断に至る。こういうことは日常の診療場面でしばしば遭遇します。したがって、確定診断に至るまでは、いろいろなことを想定して、安静、食事制限 体温測定、急変時の連絡、場合により入院などを患者さんに説明します。

 さて、熱もなく、右下腹部に痛みがないのに虫垂炎と診断されることがあるのでしょうか?

 虫垂とは、盲腸の内下側から起こる長さ約8㎝、幅0・5~1㎝の盲管で、盲腸の前側、骨盤腔内に位置しています。虫垂は、腸に入ってくる様々な物質に対する腸のリンパ組織としての役割を担っていました。ただ、先端は行き止まりであるがゆえ閉塞し、便がたまりやすく、そこで細菌感染、炎症が起きると急性虫垂炎を発症します。

 典型的な虫垂炎に罹患(りかん)すると、最初はみぞおちや臍(へそ)の周囲の痛みで始まり、熱が出て、次第に右下腹部の痛みが強くなります。現在は、抗生物質などで、軽度の虫垂炎は保存的に治療されることが多く、外科手術の適応はより厳密になっていますが、病勢が進行し、蜂窩織炎性(ほうかしきえんせい)、壊疽性(えそせい)となると腹膜炎に至るため、いまでも緊急手術が必要な疾患です。とくに問題は、なかなか診断がつきにくい以下のようなケースです。

 ①初期の症状は みぞおち、臍周囲の痛みであり、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢など伴うこともあり、胃炎や感冒、胃腸炎と区別できない。
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  したがって腹痛や発熱の経過を見ることが非常に重要。

②乳幼児や高齢者は典型的な症状を訴えにくい。
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  疑わしくなくても調子が悪ければ 飲む・食べるのは控えめにして点滴するなど早々に受診を。
 

③かくれ虫垂炎(移動性虫垂炎とも)(虫垂は固定されていないため、背中側〈回腸や結腸の背中側など〉などに移動していることがある)の場合は 右下腹部痛が現われにくいこともある。

  こういう場合は数日してから診断されることもあります。

 他にも大腸憩室炎(けいしつえん)やポリープや癌、リンパ腫なども鑑別に挙げられます。

 体調のすぐれない時は、症状の経過を詳細に観察し、食養生と安静に努めていただき、早めに医療機関を受診されることをお勧めします。