大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべんきょうさくしょう)

奈良県医師会 植山 正邦

 かつて日本で心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)は高血圧症と並んで心不全の主な原因疾患でしたが、衛生状態の改善と医療の発達により、リウマチ熱が激減した為に、患者数は減少傾向でした。しかし急激な高齢化により、近年は加齢による弁膜症や他の心臓病に伴う弁膜症が増加しています。

 心臓には右心房(うしんぼう)、右心室(うしんしつ)、左心房(さしんぼう)、左心室(さしんしつ)の四つの部屋があり、血流を1方向に維持する為に各出口には弁があります。それぞれに炎症、変性や感染症による機能障害が起こり、狭くなると狭窄症、逆流すると閉鎖不全症と呼ばれる弁膜症になります。

 左心室の出口にある大動脈弁の狭窄症が高齢化の進む先進国で増加しています。大動脈弁狭窄症の原因は、リウマチ熱の後遺症、生まれつき3枚あるはずの大動脈弁が2枚しかない先天性2尖弁(せんべん)、加齢による弁の変性の3種類です。リウマチ性弁膜症は減少し、代わって加齢による大動脈弁狭窄症が増えています。

 左心室から大動脈への血流が障害されて心臓の壁が厚くなり(心肥大)、年齢とともに進行して心不全(心拡大)になります。困った事に無症状の時期が長く続き、放っておくと胸痛、眩暈(めまい)、失神、動悸(どうき)、息切れや呼吸困難が出現するようになり、いったん症状が出るとその後は急に悪くなり、突然死する方もおられます。

 大動脈弁狭窄症は重症になると狭くなった大動脈弁を人工弁に入れ替える手術が必要で、手術時期の決定が大変重要です。しかし高齢者や持病のある方は、手術のリスクが高くなる為に手術を受けられずに亡くなる患者さんがおられました。最近、開胸することなく、また心臓を止めることもなく、カテーテルを使って人工弁を患者さんの心臓に留置する経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVIまたはTAVR)という体への負担が少ない新しい治療法が始まり、高齢者の手術例が増えています。

 健康診査で心肥大、心拡大や心雑音を指摘されましたら、すぐにお近くのクリニックを受診してください。また加齢に伴う大動脈弁の硬化を遅らせるには高血圧や高コレステロール血症、糖尿病など生活習慣病の治療を積極的に行うことが大切です。