県医師会 植山 正邦
心臓の表面にある3本の冠動脈と呼ばれる血管が心臓の筋肉に酸素と栄養を供給しています。高コレステロール血症、高血圧、糖尿病、高尿酸血症、肥満といったメタボリックシンドロームや、喫煙、加齢、慢性の腎臓病などの原因によって冠動脈に動脈硬化が起こりやすくなります。さらに進行すると、コレステロールなどの固まりができて、血液の通り道が狭くなって血流が悪くなり、運動やストレス時、食後に負担がかかって心臓の筋肉が一時的に酸素不足になってしまい、胸に圧迫されて締めつけられるような痛みが数分間続くのが一般的に狭心症と呼ばれている労作性(ろうさせい)狭心症です。
ところが、安静時に起こる狭心症があり、その中でも多いのが異型狭心症です。異型狭心症は日本人に比較的よく見られ、血管攣縮(れんしゅく)性狭心症とも呼ばれ、冠動脈に明らかな動脈硬化は無いのに、血管が痙攣(けいれん)して血液の通り道が極端に狭くなるために胸痛発作が起こる心臓病です。
異型狭心症は深夜、早朝の就寝中や安静時の決まった時間帯に胸痛発作が起こりやすいのが特徴ですが、早朝の運動時にも起こり、喫煙、過呼吸、ストレス、過労、不眠やアルコール過飲が発作の引き金になります。胸痛に冷汗や嘔吐、失神を伴う時があり、また中には重症の不整脈や心筋梗塞を引き起こして突然死する方もおられます。
検査方法や診断には、通常の安静時に行う心電図検査以外に、携帯型の装置を体につけて24時間心電図を記録する検査や運動しながら心電図を取る検査がありますが、発作時の心電図を記録するのがなかなか困難です。心電図検査以外には、心臓カテーテル検査時の薬物誘発テストがあります。腕や太ももの血管から細い管を挿入して造影剤を注入し、動脈硬化があるかどうかを調べます。動脈硬化が見られなければ薬剤を投与して発作を誘発してその有無を確認します。
治療は、禁煙と生活習慣の改善、高血圧薬であるカルシウム拮抗薬や冠動脈を拡張させる薬、高コレステロール血症治療薬等の服用も有効とされています。
なお、異型狭心症では動脈硬化によって冠動脈の血管が狭くなっていることは無くても、血管内側の傷みが見られることが多く、やがて血管が狭くなる可能性がありますので、経過観察が必要です。
また安静時の胸痛には、重症の狭心症や急性心筋梗塞、突然死に至る心臓病の可能性がありますので、早期発見と早期治療が大切です。早めにかかりつけ医や専門医の外来を受診されることをお勧めします。