気管支喘息

   県医師会    松村 榮久

 気管支喘息は日本を始めとした先進諸国では今やありふれた疾患です。平成16~18年度の厚生労働省による調査では、20~44歳の日本人の約10%が喘息と診断された経験があり、約5%が喘息として現在治療中と報告しています。また喘息は小児の病気と思われがちですが、決してそうではありません。成人喘息のうち70~80%は小児喘息の経験のない人で、その3分の2が中高年(40~60歳代)の発症です。

 喘息の主な症状は発作性の咳、喘鳴(ぜんめい:呼吸でぜいぜいいうこと)、息苦しさです。症状は夜間から明け方に多く、昼間はしばしば軽くなります。なかには喘鳴がなく慢性の咳だけが続く方があり、「せきぜんそく」と言われています。アレルギー性の気管支の炎症という意味では病態は同様で、気管支喘息の軽症の亜型といって良いでしょう。

 原因として、小児喘息ではダニ・ハウスダストによるアトピー性が大半です。一方、成人発症喘息では非アトピー性の方が多くなります。ペット(ネコ・イヌ・ハムスターなど)の毛やふけ、スギ・ヒノキ・ブタクサ・アキノキリンソウなどの花粉などがアレルギーの原因として挙げられますが、原因となる物質が明確でない方もあります。かぜなどの感染症、気温や気圧などの変化、タバコや野焼きの煙など様々な刺激が誘因となります。喘息の患者さんは明日の天気や気圧の予報が出来ると言います。台風が近づくときには喘息の症状が出やすく、それだけ様々な変化に敏感なのです。

 治療には発作時の治療と、発作予防のための維持療法があり、この維持療法が大切です。この中で最も効果が高く、副作用が少なく、かつ費用対効果にも優れているのが吸入ステロイド薬です。大事なことは、その人の症状に応じた十分な量を十分な期間使うことです。使用量は個人差が大きくAさんとBさんでは使用量が4倍以上違うこともあります。他に長時間作動型気管支拡張薬、抗ロイコトリエン薬などがあり、吸入ステロイド薬単独では治療不十分の方に併用します。

 喘息発作時は息苦しく、救急外来を受診したり入院することもありますが、いったん良くなると発作予防のための維持療法を怠ってしまう方があります。しかし喘息は死亡することもある疾患です。我が国の喘息死亡者はずいぶん減少しましたが、それでも年間約1500人が亡くなっています。ふだんの維持療法、メンテナンスはしっかり行いましょう。治療をせず放置していると、次第に肺活量が減り元に戻らなくなってしまいます。禁煙が重要なのは言うまでもありません。

 スポーツ選手には喘息を持っている人が少なくありません。スピードスケートの清水宏保選手、フィギュアスケートの羽生結弦選手、阪神タイガースの藤川球児投手などです。治療を続けながら素晴らしい活躍をされており、感動させられます。そして、私達に「やれば出来るんだよ」という素敵なメッセージを投げかけています。