県医師会 松村 榮久
睡眠時無呼吸症候群のうち、大半を占める閉塞性睡眠時無呼吸症候群についてお話しましょう。我が国での患者数は200万~300万人あるいはそれ以上と推定されています。通常、夜間の周期的な無呼吸とそれに伴う大きないびきで気づかれます。無呼吸による酸素欠乏のため睡眠の質が悪く(深い睡眠が得られず)、昼間の眠気や集中力の低下をきたします。本症は2003年の新幹線運転士の居眠りで広く知られるようになりました。典型的な患者を提示します。
肥満体型の50歳男性。会社の定期健診で高血圧を指摘されました。身長165㎝、体重75㎏、血圧160/110㎜Hg。本人は別に何もしんどくないと言われます。ただよく聞くと、夜間大きないびきをかくので同僚との旅行では「君のいびきで眠れなかった」と苦情があり、一方奥様からは「いびきの合間に息が止まっている」と心配されています。本人は寝ている間の事であまり気にしていません。ただ一晩に3回排尿のため目覚めます。また会議中によく居眠りをしてしまいます。
睡眠時無呼吸症候群は仰向きに寝ている際、睡眠による筋肉の緊張低下のため舌根(ぜっこん)が重力で下にさがり、のどの奥で空気の流れを塞いでしまうことでおこります。いびきはせまくなった気道を何とかして空気が通るときに発生する音です。扁桃腺(へんとうせん)が大きい、咽頭(いんとう)に脂肪が余分についているなどの構造的な問題があります。肥満体型で首が短く、あごがやや小さい人が多いですが、しばしば肥満のない標準体重の方にもみられます。呼吸による空気の流れが10秒以上停止することを無呼吸発作といいますが、これを一晩に何十回と繰り返します。治療せずに放置すると昼間の眠気、注意力低下、居眠り運転や事故につながります。さらに心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞、高血圧症の原因にもなります。高血圧症で血圧が下がりにくく、降圧剤を何種類も飲んでいる人は実は睡眠時無呼吸症候群が隠れているかも知れません。本症では夜間の酸素欠乏のために、本来リラックスできる夜間に昼間と同様かそれ以上にストレスがかかり、無呼吸発作のたびに血圧が上昇し、降圧剤が効きにくいのです。
正しく診断して治療すると「夜がよく眠れて頻尿が治った」「頭がすっきりした」「仕事がはかどるようになった」「血圧が下がった」と喜ばれます。最もよく行われている治療法は、持続的陽圧呼吸療法(CPAP)です。これは小さな器械を使って、鼻に装着したマスクを通して適度の圧を加えた空気を送り気道が塞がるのを防ぐ方法です。
診断には通院で可能なスクリーニングの簡易検査と、一晩入院して行う確定診断のためのポリソムノグラフィーという精密検査があります。この記事を読んで思い当たる方は、ぜひ一度医療機関でご相談ください。