奈良県医師会 植山 正邦
体を外敵から守る仕組みを免疫反応と呼び、免疫が過剰に働いたり、間違った方向に働いて傷害が起こる事をアレルギーと言います。
食物アレルギーは食物中の蛋白質が原因で(アレルゲンと呼ばれます)、患者数は年々増加しています。年齢とともに消化管が成熟して有病率は減少しますが、アレルゲンの種類も変化します。幼児期は卵、牛乳、小麦、学童期は卵、牛乳、甲殻類(こうかくるい)、思春期は甲殻類、卵、蕎麦(そば)、成人は甲殻類、小麦、果物の順に多く見られます。
特定の食物を摂った直後から2時間以内に蕁麻疹(じんましん:皮膚が腫れて痒くなる)や紅斑(こうはん:赤くなる)、顔のむくみ、目の充血、口や喉の違和感や、くしゃみ、鼻水、咳(せき)、嘔吐(おうと)、腹痛、下痢(げり)が見られます。これらに呼吸困難など重度の症状や、喘息など中等度の症状が複数加わるとアナフィラキシー、血圧が下がり意識が遠のいてしまうとアナフィラキシーショックと呼ばれ命にかかわる危険な状態です。
食物アレルギーの特殊な型として最近注目されているものが口腔アレルギー症候群で、花粉・果物症候群とも呼ばれます。生の果物や野菜を食べた直後に口の中がイガイガしたり腫れたりするのが特徴で、アレルゲンが口の粘膜に触れて起こるアレルギー反応で軽症の事が多いですが、時に重症化してアナフィラキシーになることもあります。
花粉と似通った蛋白質を含む果物や野菜があるために、特定の花粉症の人では関連する特定の果物や野菜に反応(交差反応)することで起こります。例えば、次のようなものがあります。
・シラカバやハンノキの花粉
リンゴ、モモ、サクランボ、キウイ、マンゴー、イチゴ、大豆
・ヨモギやブタクサの花粉
メロン、スイカ、バナナ、セロリ
・スギの花粉
トマト等
なお、口腔アレルギーを起こす果物や野菜のアレルゲンは酵素や熱に弱いため、加熱調理すれば分解されて食べても大丈夫な事もありますので専門医と相談してください。
またゴムの木由来の天然ゴムラテックスアレルギーの方は、よく似た構造の蛋白質を有するバナナ、アボガド、イチジク、キウイ、メロン、クリ等を食べると口腔アレルギーの様な症状を起こすことがあり、ラテックス・フルーツ症候群と呼ばれています。但しクリのアレルゲンは加熱しても分解されないために注意が必要です。
問診や血液検査、皮膚テスト、食物除去試験、経口負荷試験などでアレルゲンを特定して避けることが大切ですが、特に小児では栄養不足にならないように注意しなければなりません。
もし食物アレルギーが起これば医療機関の受診が必要です。症状が軽度であれば抗ヒスタミン薬やステロイド薬などが使われますが、アナフィラキシーの状態になれば直ちに処置しないと命にかかわります。2012年には、誤って給食を食べた小学生がアナフィラキシーショックで亡くなるという悲しい事件が起こりました。アドレナリン自己注射薬のエピペンRが健康保険の適応になっていますので、アナフィラキシーの経験がある方は専門医やかかりつけ医を受診して携帯するようにしましょう。