毛虫による皮膚炎

県医師会  井上 孝文

 春から夏にかけて、キャンプやガーデニングなど屋外での活動が多くなりますが、この時期には昆虫をはじめとするいわゆる「虫」の活動も活発になります。虫の中には触れると皮膚炎を引き起こすものもいるので、これからの季節は特に注意が必要です。そこで今回は、毛虫による皮膚炎について述べてみたいと思います。

 わが国で、皮膚炎の原因となる有毒毛(ゆうどくもう)を持つ鱗翅類(りんしるい:チョウやガの仲間)は50種類ほどが知られています。有毒毛には、体をおおっている毛に毒がある「毒針毛(どくしんもう)」と、体の表面に鋭いトゲがある「毒棘(どくきょく)」の2つのタイプがあり、それぞれ皮膚に触れた時の症状も異なります。毒針毛の場合、赤くて痒みの強い発疹がたくさん出るのが特徴です。毒針毛を持つ毛虫の代表はドクガ類で、ドクガ・チャドクガ・モンシロドクガなどが主なものです。その他、カレハガ類のマツカレハ・ヤマダカレハなどの幼虫も毒針毛を持っています。一方、毒棘の場合は刺さったところに激しい痛みを感じるのが特徴で、毒棘を持つ毛虫としては、イラガ類のイラガ・アオイラガ・ヒロヘリアオイラガなどが代表的です。

 毛虫は種によって特定の植物の葉を食べる習性があります。例えばチャドクガはツバキ、サザンカ、チャなどツバキ科の植物の葉を食べ、モンシロドクガであればウメ、サクラ、クヌギなどの葉を好みます。特に、ツバキやサガンカは庭や公園など身近な所に植えられていることが多く、実際に毛虫による皮膚炎で最も被害が多いのはチャドクガによるものです。

 チャドクガは、年に2回(5~6月と8~9月)、卵から孵化して幼虫(毛虫)になります。1匹の毛虫につき数十万本もの毒針毛を持っていて、これに触れるとたいていの場合、半日~2日経ってから赤くて痒みの強い発疹が出てきます。発疹は衣類でおおわれていない首のまわりや腕などにみられることが多いです。これらの皮膚症状は、毒針毛に含まれる毒成分に対するアレルギー反応と考えられており、中には接触しても何も起こらない人もいるようで、症状の出方には個人差があります。

 チャドクガの毛虫から身を守るためには、庭や公園でツバキやサザンカに毛虫が発生していないか確認し、もし発生していた場合は近づかないほうが良いでしょう。毒針毛は風に乗って飛散することがあるので、明らかな接触がなくても風下にいるだけで思わぬ被害にあうことがあります。また、成虫も尾端部に毒針毛を持っていますので、屋外に干した布団や洗濯物に成虫が接触していないかどうか注意してください。

 毛虫に触れたことが明らかな場合の対応としては、その部位に粘着テープを貼ったりはがしたりして、毒針毛をできるだけ除去するよう努めてください。次に泡立てた石鹸をつけて、シャワーで勢いよく洗い流してください。これらの処置で皮膚に刺さっていない毒針毛の大半は除去できます。痒い発疹がたくさん出てしまった場合でも、ステロイド軟膏の外用を主とした治療を行えば1~2週間ほどで症状は改善しますので、かかりつけ医や皮膚科医に相談してください。